三千世界の鴉なんて殺さなくても、我々は朝を迎えられる

片喰 一歌

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彼と彼女の放課後

彼と彼女の放課後<Ⅺ>

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「俺もきみと一緒がいちばん幸せなのはおんなじだけどさ♡♡ 『バレンタインシーズンの百貨店で、制限なしですきなだけチョコ買えるよ』って言っても、ちっとも贅沢したいと思わないの?♡♡ 食べたいの全部買ってあげるよ?♡」

 直後、にやにやした彼から思わぬ提案がなされ、溢れる寸前だった涙は急速に渇いていった。

「う゛……。でも、バレンタインって、女の子が好きな男の人に気持ちを込めたチョコを贈るイベントだし…………」

 窓華ちゃんと一緒にあれでもないこれでもないとデパートに長時間滞在したのもいい思い出だけれど、甘い匂いに包まれた催事場を彼と見て回るのもとても楽しいに違いない。

「固定観念は一旦置いといてもらって。単純にきみが俺とそういうバレンタインを過ごしたいか過ごしたくないかで考えたら、どう?♡♡」

「……具体的には、どんなスケジュールで考えてるの?♡」

「まず、期間中でなるべく空いてそうな日を選んで、会場に行くでしょ。そしたら、隅々までじっくり見て回って、食べたいなって思ったのは全部買って……。帰ってきたら、お茶会の準備をしよう?♡」

「お茶会?」

 意外な単語が登場して鸚鵡返ししたら、彼がわたしの口元にクッキーを運んできてくれた。
 
 よく見ないで口に入れてしまったけれど、紅茶の香りが鼻に抜けて、先ほどわたしが彼の謝罪いだのと同じものだとわかった。

「うん。買っただけで満足しちゃうのは早いよ。おいしいうちに食べなきゃ♡♡」
 
「…………あ、そっか! 賞味期限はまだまだ先でも、食べたい気持ちが最高潮のときに食べるのがいちばんおいしいもんね? 『特別なときのために』って取っておいても、すぐ忘れちゃうし」
 
「そうそう♡ そういうこと♡♡ だから、お出掛けのあとで疲れてるかもだけど、ちょっと休憩したらすぐ準備に移るの」

 アイディアマンの彼は、ふたりで楽しむことのできるイベントを計画するのが抜群にうまい。

「紅茶もちょっとずついろんな種類のを用意するから、きみはチョコをお皿に並べてほしいなぁ♡ どのチョコとどの紅茶の組み合わせが好きか話し合うのも楽しそうじゃない?♡♡ まぁ、いつもしてることの延長線上って言っちゃえばそうなんだけど…………」

「することは確かにいつもとおんなじだけど、予算が全然違うし、わたし、君と一緒にお茶の準備するの好きだよ?♡」

 滅多に言えない『好き』をここぞとばかりに強調して伝えたあとの口のなかは、ほのかな紅茶の香りと優しいバター、それからとびっきり甘いお砂糖の味で満たされていた。
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