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彼と彼女の放課後

彼と彼女の放課後<Ⅰ>

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「……一旦、休憩入れよっか!」

 ページの端から端までを数式が埋め尽くしたのと同時に、彼の声が響いた。

「うん、そうしよ。…………わぁ、もうこんな時間なんだ。全然気付かなかった!」

 スマートフォンのロック画面を確認すると、時刻と一緒に彼とのツーショットが表示され、自然と笑顔になった。

「すごく集中してたもんね。えらいえらい♡♡ 俺、喉渇いちゃったからなにか取ってくるけど、きみはどうする?」

「じゃあ、わたしも一緒に行っていい?」

 立ち上がった彼に続いて急いで立ち上がると、目の前が一瞬だけちかちかと瞬いた。

「……おっと。大丈夫?」

 咄嗟に目元を覆ったのを見た彼が、すっ、と手を差し出してくれた。

「平気。ありがとう」 
 
 なんて言いながら、ちゃっかりその手を取って、エスコートしてもらうチャンスは逃さない。

「そんなに俺と離れたくないんだ?♡♡ 甘えんぼさんだなあ♡♡」
 
「だめ?♡」 

「ううん、大歓迎♡♡ みんなの前だと甘えてきてくれないから、ふたりっきりのときはその分も甘えてきてほしいし♡ 行こっか♡」

 繋いだ手はあたたかくて、ペンを構えていた腕の疲れまでたちまち癒えていくようだった。

「きみがキッチンまでついてくる……ってことは、ご注文はミルクティーのホットでいいかな?♡♡」

「毎回、淹れさせちゃってごめんね?」

「ううん! いつも言ってるけど、本当になんにも気にしないでいいんだよ? 俺の好きな茶葉、好きになってくれて嬉しいし……♡ それに、俺はね、好きな子に尽くすのが喜びなの♡♡ なんでもしてあげたい♡ だから、してほしいなってことがあれば、なんでも遠慮なく言ってね♡♡」

「…………うん。頼りにしてるね?」

 彼が茶葉を出したりティーカップを選んだりしているあいだに、わたしはお菓子の準備をするというのがキッチンでの基本的な立ち回りだった。

(ああは言ってくれてるけど、本当になんでもいいのかな? 『抱いてほしい』なんていうのもアリ? ……こういうのって女のほうからお願いしていいもの? 彼は気にしないかもしれないけど、わたしが恥ずかしくて言えない無理……!) 

 食器棚を開け、いつもお菓子を出しているお城の描かれた絵皿を出そうとしたけれど、わたしの後ろには昨日焼いてきた並々ならぬ量のクッキーがある。
 
 そこで、ふたりで使うにはどう考えても大きすぎるシンプルなフリルプレートを使わせてもらうことにした。
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