3 / 124
放課後の約束
放課後の約束<後編>
しおりを挟む(そういうことをするときには、お洋服も下着も皺になったり破れたりしないように脱がして抜き取ってくれるんだろうなぁ……って、なに考えてるの!)
見ると、彼はギフトバッグを綺麗に開封することに成功したところだった。
「この甘い匂い、絶対おいしいって約束されてるやつ♡♡ いただきます♡」
両手を合わせた彼の、にぱっと咲いた笑顔がかわいらしい。
無理難題を突きつけるようなひとではないけれど、こんな顔を見せられたら、なんでもしてあげたくなってしまう。
「んー♡♡ やっぱりおいしい♡ 何枚でもいけちゃうね♡」
前から思っていたけれど、お口がそんなに大きくないからなのか、幸せそうに食べ物を頬張る姿がリスみたいでかわいい。
もしかしたら持ち方も一因となっているのかもしれない。
「あ! これ、こっちに入りきらなかった分を小さい袋に詰めたんだけど、よかったら持ってって? すぐチャイム鳴っちゃうし、食べてる時間ないかもだけど…………」
メインの荷物が抜けてくたっとしていたトートバッグのなかから、急いで小さなギフトバッグを取り出し、両手で渡した。
彼がいま咀嚼しているクッキーが入っていたほうは、容量重視で選んだから、なんの変哲もない透明なギフトバッグでちょっと物足りない感じだったけれど、いま渡した小さいほうは、運よくラッピングが綺麗にできたこともあって、お店で売られているものみたい。
さすがに中身はお店のクオリティには程遠いと思うけど、彼に渡すものはできるだけこだわりたいし、お洒落にしたい。
――――というのも、バレンタインや誕生日のときも、鞄に十分余裕はありそうだったのに、彼は『潰れちゃうといけないし、見せびらかしたいから♡♡』という理由で、わたしのあげたものをわざわざ手で持ち帰ってくれていたから。
童話に出てくる王子様のような彼が持つのにぴったりな高級感のあるデザインやかわいらしいデザインのものを選ぶこと自体が楽しいというのも、もちろん理由のひとつだけれど。
「いいの?♡ じゃあ、もらっちゃおっと♡♡ 食べる時間なかったら、あとで一緒に食べよ♡」
彼は軽く手を拭いたあと、小さなギフトバッグを両手で受け取り、大切そうに抱き締めてくれた。
このひとと付き合い出してからは、言動のみならず些細な行動にも人柄は出るんだと実感する瞬間が増えた。
「クッキーごちそうさま♡ お土産もありがとう♡ また帰りに、いつもの場所でね!」
「うん。またあとで」
教室へ急ぐために背を向けたけれど、急に寂しくなって振り向けば、彼もこちらを見ていた。
次の授業が終わればまたすぐに会えるとわかっていても、離れて過ごす時間がやけに長く感じるのは彼も同じなんだろう。
手を振り合って、今度こそそれぞれの教室に向かって歩き出す。
「…………えへへ♡ 今日もたくさん褒めてもらっちゃった♡ あんなに優しいひとと付き合ってるなんて、夢みたい」
マチの付いたギフトバッグからクッキーを一枚だけ取り出して、彼の感想を反芻する。
軽く手を合わせて口に放り込んだそれは、我ながら会心の出来栄えで――――。
「ふふ。昨日、味見したときよりおいしい気がする……♡」
ハートが欠けるのも割れるのも悲しくて、ひと口で食べてしまったけど、食べやすいようにひとつひとつを小さめにしたし、彼がもしここにいたとしても『ハムスターみたいでかわいい♡』と笑ってくれていた気がする。
説明する前から理由までわかっていてくれそうだし、彼と一緒にいるいまが、いままでの人生でいちばん幸せ。
だけど、ほとんどの恋は長くても数年で終わってしまうものだから――――。
「……結婚して、ずっと一緒にいたいなぁ……」
彼と一生愛し愛される関係でいられたら、どんなに幸せなことか。
(まだキス止まりなのに。…………でも、本当にそう思うんだもん)
とりあえずは、本日最後の授業と来週に控えた試験を頑張らなければいけない。
卒業したら数年間は離れ離れだから、いまのうちにいっぱい思い出を作っておかないと。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる