カラメリゼの恋慕

片喰 一歌

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『一緒がいい』

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「そんなもんなくたって、オレがどこにでも連れてってやるさ」

 鏡で確認した彼の唇は随分と前に出ていて、見るからに不満そうだ。

「…………不満なの。…………恐怖なの。どっち?」

 本当は自信なんてこれっぽっちもないのに、勝ち誇った笑みで武装した。『私は安い女じゃないの』と。『だから、頑張って、せいぜい繋ぎ止めておいてね』と。
 
「どっちもだ。お前さんがお前さんでなくなっちまいそうで怖いんだよ。…………なんでまた、今更んなって墨なんざ入れようとしてんだ」 

 とにかく彼は反対のようだ。ここから説得出来るのかはわからないが、とりあえずやるだけやってみるのも悪くないだろう。

「なんとなく。格好いいじゃん、翼。そういうのに憧れるの、別にオトコの特権とかじゃないから」

 抱き着いたまま、羽のひとつひとつに口付けを施していく。

 正直なところ、最初は悪趣味だとすら思っていたそのデザインだが、何度も目にしているうちに愛着が湧いてしまった。単純接触効果も存外馬鹿には出来ないらしい。

「…………痛いのは? 苦手だったよなァ?」

 顔だけで振り返った彼の声は低い。元から低いのだが、機嫌の悪さを反映しているらしく唸るようなその声は、情事の最中とも似ていた。
 
「だからだよ。背中の三分の一くらいって、相当な面積でしょ。これ彫ってるときの貴方の気持ちを追体験したい……的な。まあ、私と貴方じゃ、全然違う感想になるんだろうけど」

「追体験? なんでまた」 

「『痛かった』って言ってたでしょ。覚えてる。貴方だって痛いのは好きじゃないのに。……たぶん、特別な意味を込めてるんだよね。この翼には。私にも話してくれないくらいの誓いが、この背中には刻まれてる……」 

 羽の一枚に再度キスをしたら、大きな背中が意外そうに跳ねた。

「広さも全然違うから、痛い思いをする時間は貴方より確実に短くなっちゃうだろうけどね。……もしかして、あんまり意味ないかな。自分で言っといてどうかと思うけど、行動に移すうごく前から破綻だらけの計画だったな……」

「…………そんなに一緒がいいか?♡」

 振り向いた彼は私を膝に乗せた。

「うん。一緒がいいよ…………」

 つるつる滑ってしまわないように、今度は正面からしがみつく。
 
「そうかい。なら、止めんのも野暮天だなァ。彫師なら紹介してやるさ」

 向かい合った大きな口にキスをねだったが、彼は後ろに身体を引いた。
 
「本当に!? 同じ人に頼んでもらえる?」

 喜びで自然と声が大きくなった。

「もちろんさ。……なァ♡♡」

「え? なんで二年後?」

 ――――聞かなくてもわかる気がした。それでも、聞かずにはいられなかった。
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