カラメリゼの恋慕

片喰 一歌

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長くて短い道のり

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「そんじゃ、そろそろ移動すっか……」

 ぬくもりが去ったあとの肌は、寂しく、そして寒い。冬以外におでこが寒いと感じることがあるなんて、考えたこともなかった。

「このままで?」

「汚れを最小限に抑えるって考えたら、実質一択だろうが」

「……まあ、確かに。お風呂場で続きするんだし、抜く理由もないか……」

 という呟きを聞くが早いか、彼は一歩を踏み出した。

「! っ、ふ……♡ ぅ、ぅぅう……っ♡♡」 

 彼の肉体は見掛け倒しなどではない。
 
 子どもの頃から毎日四ダースの卵を食べていたヴィランほどではないにせよ、服の上からでも鍛えられていることがわかる。
 
 そんな彼が、成人女性にしては軽いほうの私を抱えるなんて造作もないことだ。

 ――が、どれだけ安定感があったとしても、まったく動かない・擦れないなんてはずはなく、口を開けば声が飛び出してくる始末だ。

「おーおー♡♡ いいねェ♡ その声だ、オレが聞きたかったのは……。もっと聞かせてくれよ♡ さっきはおとなしかったしなァ……。御満足いただけなかったかい?」

「…………気持ちよすぎて声が我慢できないときと、気持ちよすぎて声が出ないときがあるの。貴方も知ってるでしょ?」

「そういうことなら仕方ねェな♡」

 回りくどい賞賛を受けた彼は、ずんずん進んでいく。当然、それは私にも伝わってくる。

「あ♡ ……ねえ、わざと揺らしてるとかないよね?」

「そう思うなら思っときゃいいじゃねェか♡ だけだ…………」

 下腹部に衝撃を受けながら尋ねたところ、彼のアンサーは疑念を肯定するもので。

「やっぱりわざと……、ぁんっ♡♡」

 揺らされ、突き刺され、ほじくられ――。しがみつき、巻き付け、締め付けて――。その応酬は、続いたと言ってもせいぜい数回だったのだろうが。

「…………それ以上はいいだろ♡ へばってねェよな?♡ だぜ?」

 永遠のように感じられた責め苦は、呆気なく終焉を迎えた。

 ――否。終わりこそ始まりとはよく言ったもので、水滴ひとつない大判のタイル貼りのバスルームに到着したのち、彼は目を妖しくぎらつかせた。

「え……♡」
 
 呼吸が乱れているのは、息が切れているのではなく興奮のためだろうと思ったのは、私を支える手指が肉に食い込んでいたから。

「風呂が沸くまでの時間、有効に使おうぜ♡」

 思えば、その宣言こそが最後の温情だったのかもしれない。
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