カラメリゼの恋慕

片喰 一歌

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お互い様

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「……いや、それはその、誤解で。外だって暗くなったばっかりだし? ここからひと晩ずっとっていうのは、二年ぶりの身体にはきついでしょ? 二年空いてるのは貴方だけじゃなくて私もだし」

「ベリーダンス」

 手心を加えてもらえないかとずるい算段で慌てて言葉を重ねたが、たったひとつのワードがそれを阻止した。

「!!」

「習ってたんだろ? ちったァ体力もついたんじゃねェのか?♡」

 脇腹の肉をつままれた。全部が贅肉というわけではないにせよ、自信がついたからいつ触られても平気になるというものでもない。

「『習って』じゃなくて『習って』けど、さっきのは売り言葉に買い言葉…………というか、本当にただの誤解で……!」

「寝る間どころか食う間も惜しんでヤりてェのかと思ったんだが、違ったかい」

 身を捩っても余計に恥ずかしい部分を晒すだけ。

「どうかな……。シたいときに出来ないのは貴方がいなくて特につらかったことのひとつだけど、貴方と一緒にご飯食べるのも好きだし、本当は別になんにもしなくたっていいの。同じ空間にいて、近くで息してるって確認出来たら……。たぶん私はそれで満足」

「だったら、さっきのはどういう意味だ? ひと晩中こうしてたいってわけじゃねェんだろ? 言わねェと、かもなァ?」

 怒気が伝わる。言葉から? ――否。普段より少し乱暴に押し込むようなピストンから。
 
「…………ごめん。拗ねてたの。恋愛より仕事が大切なんて当然だし、同じ土俵になんて立てるはずないってわかってる。どっちか選ばせたいわけじゃない。どっちも大切にしてるって知ってるし、両方大切に出来る貴方が私は好き」

 返事をするかのようにキスが落とされた。話の邪魔をしないために頬にしてくれた気遣いもきちんと伝わっている。

「でも、たまに…………年に何回か、『どうして今すぐ会えないんだろう』って思うことがあって、さっきはそのときのこと思い出しちゃってた。『あんなに寂しかったのに、ひと晩で埋め合わせ出来るなんて思わないでほしい』みたいな……」
 
 感謝と謝罪に埋もれてしまわないことを願いながら、唇に狙いを絞ってキスを返した。
 
「……でも、埋め合わせしなくちゃならないのは私も同じだよね。会えなくてつらかったときは、貴方にだってあったはずでしょ」 

 想いが釣り合っているという確信を持てているのならただの確認でしかない質問だろうが、私にとってはその限りではなかった。

 腕の中にいるときは愛されていると思えるのに、離れてしまうと不安に支配されてしまう。貴方に片想いしていた時代に逆戻りしてしまったかのように。
 
 本当は怖かった。否定されたらどうしようと怯えていた。激しい雷鳴を恐れ、お気に入りのブランケットを被って勉強机のある部屋の隅で震える臆病な子どものように。
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