カラメリゼの恋慕

片喰 一歌

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ネオン街の拘束

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「…………言ったでしょ、さっき」

「何を?」

 彼は被せ気味に問うた。

「貴方の好きなところ。音楽性とかじゃなくて歌詞の素朴さで何かの間違いじゃないかってくらい売れた平成中期のJ-POPの歌詞みたいに羅列した。だらだらって」

 微かに息が漏れた。笑ってくれたみたいだ。

「貴方も嬉しそうだった。自分で言っててびっくりしたけど、あれでも一部なの。貴方って何から何まで個性的で刺激的。その気はなくても、みんな貴方に引き寄せられる……」

 高い鼻を滑り降り、厚い唇に触れる。今は閉じられているが、大きく開いて奥行きもあるその口に食べられる食物が羨ましい。

「派手で危険で妖しくて、歩くネオン街みたいな人。それが私の思う貴方。……そんな私が貴方以外で満足出来ると思う?」

 そろそろ舌戦の得意な彼に勝負をひっくり返される頃ではないかと身構えていたが、意外にも彼は沈黙を守っている。

「疑わないで。私の愛はそんな薄っぺらいものじゃない。貴方の外見も好みだけど、上っ面だけ見て好きって言ってるわけでもない」
 
「…………お前さんのほうがよっぽどセンスあるよ。聞き飽きた昔のJ-POPなんかよりさ」

 最後まで言い切ると、彼は私の腕をどかし、頭の上でひとまとめにしてしまった。今の私は、まるで壁にかかった手錠に拘束されているような姿勢になっている。

 何が起きているのか把握する前に、彼が身体の向きを変えた。
   
「ありがとう。容疑は晴れた?」

 何が目的だ。なぜこんなことをされているのかわからない。『その手をどかせ』と暗に要求するも――。 

「もちろん。……だが、少しばかり大人しくしてもらおうかねェ……」 

 彼は器用にも両手首をまとめて掴んだまま、私を後ろに倒していく。
 
 一緒に昼寝したり、金曜の夜に放送される映画を観て感想を言い合ったり、このソファには思い出が詰まっているはずなのに、ベッドとして使ってもスペースに余裕があるなんてこと、貴方の留守中は忘れていた。

「あ……っ♡♡」

 背中を支えるもう片方の手にすら感じてしまう。素肌に直接触れているわけではないのに、手のひらが熱を発していて。

「ベリーダンスの成果とやらは見せてもらったからなァ……。オレ以外じゃ物足りないお前さんをたっぷり二年分満足させてやろうかねェ」
 
 彼は話を続けながら、ネクタイらしきもので手首を縛っていった。

「二年分をひと晩で? そんなこと出来るの?」

 ぐしゃぐしゃになったワンピースの感触が少し気持ち悪いが、じきに気にならなくなるだろう。

搾り取ってやろうって? 飯も食わずにで?」

「!!」

 布の感触に気を取られていて、迂闊にも願望を覗かせてしまった。
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