カラメリゼの恋慕

片喰 一歌

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「……なァ。本当に二年ぶりかい?」 

 大きな手がブラジャーの上から胸を揉んでいる。

「疑ってるの?」

 会えない間にカップサイズは上がったが、二年の前の大きさなんて正確に記憶しているものだろうか。

「慣らさなかったってのに、ぶっといのも楽々呑み込んじまうし、腰使いが一段と…………」

 手を止めた彼が次に目指したのはお尻だった。というか、腰なのかお尻なのかわからない中間のあたり。

「…………わからない? 好きなオトコと久しぶりに会えて、嬉しくなっちゃったの。腰使いはベリーダンスのおかげかな」

「ベリーダンス?」

「うん。勧められて始めたら、意外と楽しくて。お腹も引き締まったと思うんだけど、どうかな」

 感想が聞きたくて骨の出っ張ったごつい手首を上下にスライドさせていたら、思いの外気持ちよくて、腰が揺れてしまった。

「どうだろうなァ。お前さん、元々細っこかったじゃねェか」

「見た目だけでしょ。ぷよぷよしてて筋肉なかったし、寸胴だから足短いのと合わさって典型的な日本人っぽい体型で……。今だって貴方みたいにムキムキじゃないけど、自分史上ベストな体型なんだよ。これでも」

 縦にも横にも入った腹筋の線に触れて、ため息をつく。浅黒い肌の色についた板チョコのような線に少しでも近付きたかった。

 ――男性と女性では筋肉の付き方も違えば、貴方と私では肌の色もまったく違うのに。

「そうだなァ。見違えたよ。……だが、オレのためだって証拠はどこにもないよなァ?」

 大きな手が腰を掴むせいで、腰骨が痛みを訴える。

「やっぱり疑ってるんだ」

「…………『二年おきにしか会えないのが不満』って言われりゃあ、勘繰りたくもなるだろうさ。会いたいときに会えて、ヤりたいときにヤれるオトコがいいんじゃねェか? オレは我慢させてばっかだからなァ……」 
 
 しかし、彼はこうも疑り深い人だっただろうか。

「あっっ♡♡」

 微細な変化に思いを馳せていると、彼が下から突き上げてきた。

「動くなら先にひと言ちょうだいって言ってるのに……っ♡」
 
 力の向かう方向は真逆だが、テントを張る際にペグを打ち込むような、その場に留め置くための動きなのではないかと思った。

 この背中にはいつでも飛び去ることの出来る翼などないのに。持っていたとしても、私は私の意思で貴方のそばにとどまり続けるのに。

「悪いなァ。…………で? 答えは?」

 広い背中にしがみついた。この手の下には、天界にも魔界にも居場所のない何者かを象ったような翼がある。拠り所がないということは、換言すれば究極の自由だ。

 そう。彼は自由が服を着て歩いているような人間だった。昔はもっと寛容で――いや、あれは無関心だったのかもしれない。
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