カラメリゼの恋慕

片喰 一歌

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「それでも、帰ったら必ずあったかく迎えてもらえるってのは、ありがたいよなァ。……今回もその前も待たせちまって……。すまねェな…………」
 
 付き合ってはいるものの、結婚もしていない私の家に来ることを、必ず『帰ってくる』と表現する彼が、たまらなく好き。

「謝ることない。寂しいって思っててくれたの、嬉しいし」

「そうは言ってもなァ……。お前さん、電話も滅多にしてこねェし……。いいんだぜ? 留守電残しといてくれりゃ、いつだって聞けるんだ。遠慮しねェでかけてきて構わないってのに」

 やや強いくらいの力で肩を抱かれ、ようやく実感が伴ってきた。離れて過ごしていた私たちの時間が、再び交わったのだと。

「いや、それは単純に私の懐が寒くなっちゃうから」
 
「ハハ! そうかい! お前さんの財布の紐は、相変わらずパンツの紐より固いなァ」

 節くれだった指はするする腰まで下りてきて、服の上からゴムのあたりを彷徨っている。

「残念だけど、今日は紐パンじゃない。…………確かめる?」 

 貴方がエッチな冗談を飛ばすときは、シたくて仕方がないときだ。離れたからといって、すぐに忘れてしまえるほど淡泊ではない。
 
 彼の軽口に便乗してしまったのは、私も久しぶりに愛を交わしたかったせい。

「確かめるったって……。この暗さじゃあ、お前さんがどんなパンツ履いてようがわかんねェだろうが。こういうのは目でも楽しまねェと」 

「…………あ、だめ! 点けないで! 今日はこのままで…………」

 立ち上がった彼がシーリングライトから伸びる紐を探し始めた気配を察知し、太腿に抱き着いた。

「『まだ点けるな』、ってか。……それは構わねェが、お前さん……。服も脱がねェうちから、挿れる前みたいなことを言いなさんな」

 再び隣に掛けた彼の声が低くなる。突然の不機嫌の原因はなんだろう。
 
「……え? 何、挿れる前って」

 自身の発言を顧みたところ、とんでもないことを口走ってしまっていたことに気付いて、嫌な汗がドバドバと噴き出してくる。

「あ……! そういうこと…………!?」 

 ということは、声が低くなったのも機嫌が悪くなったからではなく、おそらく――――。

「そういうこった。びっくりしちまったよ」

「…………でも、今日は大丈夫な日だよ?」

「ひとりで生んじまうつもりかよ。つれないねェ」

 職業柄、彼は声色を操るのがうまい。だが、そこに感じた切なさは演技ではない気がした。

「そうだけど。別に『結婚しろ』とか『養育費払え』とか言わないから、安心して全部出しちゃっていいよ」
 
「…………。そういうのはあとでまた聞くさ。とりあえず、今日はなんでまたこんな真っ暗にしてんのか聞きてェんだが」

「このほうが、大胆になれそうかな……みたいな」

 出まかせの理由を訝しんでいるのだろうか。しばらく彼から返答はなかった。
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