我々はうさぎではないので、乙女座の我が子にはまだ巡り逢えない

片喰 一歌

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HONEY BUNNY

HONEY BUNNY<CCCVI>

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「えぇ?♡ ほんとかなぁ♡♡ さっきのキス、んじゃないかと思うんだけど♡♡」

 彼の降らせたキスは、唇の表面を掠める程度のものだった。

 咥内を味わい尽くすような濃厚なキスではなく、刻印を残すように押し付けるものですらない。

 例えるなら、目覚めと就寝時、それから出発前と帰宅時に交わす、ふたりのあいだの特別な挨拶のよう――――。

「あれだけで舌回らなくなっちゃった?♡ あの程度のキス、し、したあとに言葉でも挨拶してくれてるよね?♡ そのうち一回は、きみが夢の中にいるときだったりはするけどさ♡♡」

 悪魔の笑顔がほんの少しだけ王子様の笑顔に戻って、口付けてもらっても目を開けることのできない自分を申し訳なく思ったけれど。

 またも言葉を交わさずして通じ合うことができた喜びに、心の中は瞬く間に塗り替えられて。

「あ……♡♡」
 
 掘った墓穴を埋め直す努力より、この身を委ねたい気分が上回り、唇の下の窪みに飛び込んだ。

「……まぁでも、褒められて悪い気はしないし、ここはか♡ 教えてくれてありがとね♡ 一旦喋れるようになると、あんあん言いっぱなしになっちゃうから、それもそれで心配だけど……♡♡」

 彼はそれを狙いのズレたキスと受け取ったのか、手本を見せるように唇を合わせてきた。
 
「っん……♡♡ どう、して……?♡ っ、ぁん♡」

「ほらまた啼いた♡♡ そんなにかわいい声聴かせて……♡ 今度はなにをしてほしいのかな?♡ 言ってごらんよ♡♡」

 さながらペット煩悩の飼い主といったところか。
 
 熱の引かない頬に擦り付けられた鼻尖は、吐息のせいで湿っていた。
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