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HONEY BUNNY
HONEY BUNNY<CCCIII>
しおりを挟む「ふたつめだよ♡」
彼は、しばらくふたつの痕を眺めていたかと思うと、少し顔を歪めて。
それから、獣たちが傷口を舐めるように、真新しい鬱血痕の上を舌で撫でてきた。
「あぁ……っ♡♡」
脱力した舌の柔らかさは、秘部を愛撫してくれるときのそれと酷似していた。
「……やっぱりやめたほうがよかったかなぁ。自分で付けておいていまさらなにを、って感じだけど……。というか、確認もしてなかったな。せっかく綺麗にお手入れしてるのにね、ごめん……」
「ううん♡ わたし、特別な痕いっぱい欲しいから♡♡」
頼りない記憶を手繰り寄せ、以前の発言を間に合わせの言い訳に再利用した。
そう。間に合わせではあっても、決して嘘ではない。
なにひとつ嘘はなかったけれど、わたしはキスマークによる死亡リスクなど恐れはしない。
『愛しいひとにもたらされる死は至上の幸福』だと、ひとつめの所有印をつけられたとき、脳裏に芽生えた屈折した希死念慮とでも呼ぶべきなにかが、いまや脳内を占拠するまでに育っていた。
「そうだったね♡ よかったら、きみももうひとつ付ける?♡ ひとつと言わず、何個でも♡♡」
彼が優しくなにかを尋ねてくれている声が遠くで聞こえるけれど、内容が頭に入ってこない。
片方の首筋を見せつけるようにしているから、同じことをさせてくれようとしているのだろうと見当はつくけれど、返事をするのも億劫だ。
『身体中に愛の証を刻まれるより、ひとつしかない命を摘み取ってほしい』。
心の中でこっそり唱えるごとに、その願いは大きく、確かなものになっていくかのように思われたけれど。
「なに考えてるの?」
「…………へ?」
思考を強制的に中断され、間の抜けた声を上げる。
慌ててピントを合わせると、鼻と鼻とがぶつかった。
「あぁ、ごめん。近付きすぎちゃった。でも、どうしたのかなって思ってさ」
彼は、衝突したばかりの高い鼻をさすっている。
「えぇっと……」
「さっきからずっと黙ってるし、目も虚ろで……。疲れちゃったなら、また別の日にしようか? 俺は逃げないし、拒んだりもしないよ」
投げかけられた言葉にはっとする。
秘めに秘めていた暗い考えは、瞳に浮かんでいたらしい。
「ううん、違うの。体調は全然……っていうか、すごく元気! 黙ってたのは……ごめんなさい。えっと、なんていうか、その……考え事? してて…………」
それ以上、瞳の奥を覗き込まれないがために、ふいっと顔を背けたけれど。
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