我々はうさぎではないので、乙女座の我が子にはまだ巡り逢えない

HONEY BUNNY

HONEY BUNNY<CLII>

「そう、きみの言うとおりだよ。人間には守るべき部位が多すぎる。その中でも危険度の高い首に触れても抵抗しないのは信頼の証だよね♡♡ 無防備すぎない？♡ 相手が俺だから油断してる？♡ 俺がその気になれば、きみなんて簡単に殺せるんだから、気を付けてなきゃダメでしょ……？」
　
　髪がかかるほど近付いて、吐息が肌を擽った。
　
　睦言と同じトーンで警告されたって暖簾に腕押しだってこと、わからないひとではないはずなのに。怯えるわたしを見て愉しんでいるの？
　
「あなたはわたしを殺したりしないでしょ？」

　不自由な声帯を震わせて強がってみる。

「…………そっか。そこまで信頼してくれてるんだ。でもね、それが命・取・り・に・な・る・かもしれないよ……？　こんなふうにさ……♡♡」

　すると、彼はぐっと力を込め、先ほどの比ではないほどしっかり圧迫してきた……ように感じたけれど、気のせいかもしれない。
　
　そうでなければ、こんなに楽しそうに真っ白な歯を覗かせていられるはずがないから。
　
　それとも、少し加虐的な一面はあれど決して残虐なひとではないなんていうことすら、わたしの思い込み？
　
　何年一緒にいたって、あなたの魅力は底が知れない。

「そういえば、『生命の危機を感じると、子孫を残そうとする本能がなんたら』とか言うけど、あれってどうなんだろうね？」

　白い歯列の奥に続く闇を覗いていると、彼の瞳が視界に割り込んできた。

「え？」

「きみはいま、俺に首を絞められそうになって、なにか心境に変化はあった？♡♡ いや、そもそもこんな弱い力で押さえられたくらいじゃ危険とは思えなかったかな。……あ。でも、『ちょっと生きた心地しない』って言ってたっけ。少しは身の危険、感じてくれた？♡」
　
　無邪気に投げかけられた疑問にぞくりと鳥肌が立つ。未遂だというのなら驚きだ。
　
　わたしの首は絞められそうではなく絞められていたし、ひやりと背筋に冷たいものが走るほどしっかりと力が込められていたと思うのに、彼はそれを加減していたのだと言う。

　承知していたよりずっと危険なことをしていたとわかり、血の気が引いていったけれど、論点はそこではない。

　ここでいう『心境の変化』とは、子をなすことに対する感情を指しているのだろうから。

「それ、男女共通なのかな？　ずっと男の人側の事情だと思ってたんだけど……」

　ちらちらと目の前の男の様子を上目遣いに窺いながら、もじもじ尋ねる。