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HONEY BUNNY
HONEY BUNNY<CLI>
しおりを挟むそんな不埒な考えは脇に置いて、死者を迎えに来た天使のような彼を仰ぎ見ながら再考する。
今際の際のさらにその前、わたしがこのひとに願うのは――――……。
「…………だったら、痛くても苦しくても頑張って耐えられるように優しくしてほしいかなぁ。『かわいいよ』、『愛してる』って甘やかしてほしい♡ あとは、たくさんキスしながら繋がりたいな……♡♡」
他にもねだりたいことやモノはあったけれど、繋がる前からそこまで開放的には振る舞えない。唇をきゅっと結んだ。
「ご褒美の前借りってことか。もちろんお安い御用だよ♡ 死んでも忘れられない素敵な記憶にしようね……♡♡」
「うん、お願い♡」
覆い被さる彼がゆらりと揺れ、いよいよ待ちかねたときが来たと思ったけれど、その手は依然としてわたしの首にかけられたまま。
「……ねぇ」
命を握られている不安といまだ始まらない密事への期待が高まって、閉じたばかりの唇を開く。
「ん?♡♡ なにかな♡」
彼は鼻歌でも歌い出しそうなほど上機嫌だ。
「まだ手どけてくれないの?」
声帯のちょうど上を押さえつけられているせいで、声を出すにも違和感が生じる。
「ああ、これか。どけてほしい?」
彼はそう言って指の位置をずらすと、頸動脈を圧迫した。
冗談だとわかっていても、臆病な部分は死への恐怖に打ち震え、被虐的な部分はどうしようもなく昂ぶってしまう。
「できれば、どけてほしい……かなぁ。こういうどきどきもたまにはいいかもしれないけど、ちょっと生きた心地しなくて。ごめんね? あなたのことが怖いとかじゃないんだけど……」
「殺す気なんてないってわかってても、ぞくっとしちゃうよね。急所に他の人の手があるのは」
先ほどの意思表示などなかったかのように、彼の手はわたしの首の上で落ち着いてしまっている。
「うん。でも、挙げたらキリがないよね? 人体って急所だらけだったと思うし……」
『これ以上、わたしをおかしくさせる気なら責任を取ってよ』だとか、『あなたの一挙手一投足に痺れっぱなしの脳髄から神経の通っていない毛先まで、情熱的に愛し尽くして』なんて、言葉にできない滅茶苦茶な欲望が次から次に湧き上がって止まらない。
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