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HONEY BUNNY

HONEY BUNNY<CXLIII>

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「できれば、きみの前ではかっこいい俺でいたいんだけどね。……まぁそこはなんでもいいか。でも、これからは俺ときみふたりの共通点だけじゃなくて、違いも一緒に愛してくれたら嬉しいな。俺のことは言うまでもないけど、俺の愛するきみひとのことも、もっともっと愛して?♡」 
 
 キスのスタンプを押された彼は少し背中を丸め、再び頬を寄せてきた。まばたきするごとに触れる長い睫毛は、蝶の戯れのごとく羽搏く。
 
「……ねぇ。俺とは全然違うきみのいとしいひと。ほんとは納得してないよね。『ずっと一緒って約束してくれて嬉しい』なんて思ってないよね?」

 快感と掻痒感のあいだで揺蕩っている中、蒸し返されたのは、わたしが強制終了させたおわらせた問答だった。
 
 どこまでも追及すると言っただけある。半ば感心にも似た気持ちをおぼえつつ、ひくりと口端が引き攣った。

「いや、嬉しいと思ってくれてるのは本当なんだろうけど……。なんて言ったらいいかな、『妥協しきれてない』みたいな感じ?」

 肌を擽っていた感触が消えたかと思えば、背筋を伸ばした彼と視線が交差する。

 ――――ああ、またその瞳だ。

 感情の吹き溜まりを軽く浚うなんて、そんな生易しいなものではない。
 
 水気を飛ばすみたいに周囲を固める建前や言い訳まがいものを弾かれて、残るのはいつも、噓偽りのない本心からの声だけだ。
 
「…………あなたは、どうしてそう思うの?」

「だって、俺の保証できる『死ぬまでずっと』は、きみの願う『死んでからもずっと』じゃないし……。俺の知ってるきみは、びっくりするくらい諦めが悪いから、二、三度断られたくらいじゃめげないはずだよ?」

 ウインクを飛ばされても、瞑った片目を縁取る睫毛に注視してしまって、どきまぎしながら続きを話してくれるのを待つことしかできない。

「さっき話してくれた『死んだあとも愛してほしい』っていうのだって、『ひとつになりたい』のと同じかそれ以上に、きみにとって譲れない大切な願いなんじゃない?」
 
 そんな事情もつゆ知らず、こうして研ぎ澄まされた言葉で核心をひと突きしてくるところだって、長所短所で論じるのなら短所だろう。
 
 他の人であれば問答無用でわたしの人生から一発退場させているぜったいにゆるしてはいない。でも、彼に見抜かれてしまうのは少しも嫌ではなかった。

 むしろ、暴かれたいがために弱気になってみたり、瞳を潤ませてみたり……。純真とはかけ離れた垢塗れの演出をやめられない。

「…………今度こそ、きみの本当の気持ちを聞かせて?」

 でも、そんな醜いわたしもきっと、あなたの目を通して見れば、数ある『かわいいきみ』のバリエーションの一種なのだろう。
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