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HONEY BUNNY

HONEY BUNNY<CXXXIX>

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「そんなの、わたしにだってわからないけど……!」

 彼は、なおも言い募るわたしの頭を撫でる。

「うん。きみはなにがあったって、俺を愛し続けてくれるんだろうなって思ってるし信じてるよ。記憶をなくしても、身体をなくしても……きっとね。ただ、それとまったく同じ信頼を自分に向けられるかっていうと、そうじゃない。俺だってそのつもりではいるけどさ、死んだらどうなるかなんて、さっぱり見当もつかないよね? そんな状態でした約束を…………まぁ、きみならそれでも信じることができるんだろうけど」
  
 歪めた口元は複雑な想いを物語っていたけれど、その声は呆れ気味な台詞に反して静かで優しい。

「そんなの当たり前でしょ。あなたの言葉を信じない理由がないもん」

 話しているうちに熱が入って、彼を後ろに追いやってしまっていた。
 
「……だからだよ。きみはどんなときも俺を絶対的に信じてくれてる。でも、俺はその信頼を裏切ることに耐えられない。果たせない可能性が少しでもあるなら、そんな約束はすべきじゃないよ。……したくないしね。だから、『俺が自信持って約束できるのは死ぬまでだよ』ってだけのことでさ。本当にそれ以上の意味はないんだよ」

 彼は慌てて後ずさるわたしを片手で押しとどめながら、懇々と説く。
 
 なんという誠実さ。なんという生真面目さ。さぞかし生きづらいことだろう。でも、そんな不器用なひとだから、わたしは彼を好きになったのだ。

「ごめんなさい。早とちりして責めたりして…………」

 彼の顔がまともに見られず、力なく項垂れた。

「ううん、俺も言葉が足りなかったよ。ごめんね。最初から全部説明してれば、きみに悲しい想いをさせずに済んだのに」

 彼は視線を遮ってくれていた髪を掻き分け、ぽんぽんと優しく背中を叩く。
 
「あなたはいつも誠実だね。無茶振りにも付き合ってくれるし、くだらない用件でも真っ直ぐ向き合ってくれる。……でも、たまにそれがものすごく苦しい。わたしにはあなたみたいに考えるのは難しいよ。裏切りたくないって思ってくれてるのもわかったし、わたしもその気持ちを尊重したいのに、やっぱりどうしても保証してくれるなにかが欲しいの」

 嗚咽を漏らしながらも、次から次へと想いは溢れて。
 
「前に言ってくれたでしょ、人は変わるものだって。わたしもそう思うよ。あなたが昔と一八〇度違うこと言うようになったとしても、前に言ってくれたことが嘘だったなんて思ったりしない。『そのときそう思ってた』ってこと、絶対に疑ったりしないから……」

 とめどなく流れる涙が胸板を滑っていく。
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