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HONEY BUNNY
HONEY BUNNY<CXXXVIII>
しおりを挟む死んだらなにも残らないなんてわかっている。わかっているの、そんなことは。
夢見がちな性質のわたしでも、そのくらい弁えている。
けれど、そう簡単には割り切れない。『いつまでもこのひとと一緒にいたい』と痛切に感じたのは、初めての経験だったから。
「前はそういうことだって思ってた。……思い込もうとしてた。っていうか、普通はそうなんだよね。わかってるの」
彼はほとんど瞬きもせず、わたしを見守っている。
「だけど、わたしは…………」
たとえ死んだら離れてしまうのだとしても、理想の具現のようなあなたから、身も蓋もない残酷な現実を突き付けられたくはない。
『死がふたりを分かつまで』ではなく『死がふたりを分かっても』、わたしはあなたを愛したい。わたしはあなたに愛されたいの。
それがわたしの求めてやまない『永遠の愛』だった。
「死ぬまでじゃやだ。そんなの短すぎるよ……。わたしは死んでからも、あなたとずっと一緒にいたいの。一緒に過ごせる時間が何十年残ってたって関係ないよ。あなたといると、一日なんて一瞬で終わっちゃうから」
あなたの言う『ずっと』はわたしの思う『ずっと』ではないし、あなたの考える『永遠』もわたしの望む『永遠』とも違っている。
「…………だから、お願い。『死んだらお別れ』みたいに言わないで……」
嘘でいい。不確かでいい。
死後も続いていく縁で結びついているのだと、わたしをうまく騙してよ。おどけながらでも、かっこつけていてもいいから。
「そういうことか……。俺だって、できることなら死んだあとも一緒がいいよ。もし来世があるなら、そこでもまたきみと出会って恋して、一生そばにいたいに決まってる」
ふーっと長い息を吐いた彼は、頬にそっと手を添え、顔を傾けた。
降りしきるキスの雨が、かさついた唇を潤していく。萎れかけの花に水を与えるように満遍なく、真心を込めて。
誤魔化しだと言い掛かりをつけることもできず、嘘ではないかと怪しむ余地も残されていない。
わたしの永遠を頑なに拒んでおいて、こんな仕打ちはあんまりだ。
「じゃあ、どうして…………?」
渇いて渇いて、枯れる寸前だった心が息を吹き返す。せっかく回復したのに、第一声は疑問の形をした不満。
「簡単だよ。『死後の世界も来世も、あるかわからない』から。……保証できないんだよ、死んだあとのことなんて。だから、無責任に約束できない」
かわいさなんて欠片もないわたしの左手の小指と薬指を握って目を伏せる姿は、祈りを捧げているようだった。
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