224 / 533
HONEY BUNNY
HONEY BUNNY<CXXXVIII>
しおりを挟む死んだらなにも残らないなんてわかっている。わかっているの、そんなことは。
夢見がちな性質のわたしでも、そのくらい弁えている。
けれど、そう簡単には割り切れない。『いつまでもこのひとと一緒にいたい』と痛切に感じたのは、初めての経験だったから。
「前はそういうことだって思ってた。……思い込もうとしてた。っていうか、普通はそうなんだよね。わかってるの」
彼はほとんど瞬きもせず、わたしを見守っている。
「だけど、わたしは…………」
たとえ死んだら離れてしまうのだとしても、理想の具現のようなあなたから、身も蓋もない残酷な現実を突き付けられたくはない。
『死がふたりを分かつまで』ではなく『死がふたりを分かっても』、わたしはあなたを愛したい。わたしはあなたに愛されたいの。
それがわたしの求めてやまない『永遠の愛』だった。
「死ぬまでじゃやだ。そんなの短すぎるよ……。わたしは死んでからも、あなたとずっと一緒にいたいの。一緒に過ごせる時間が何十年残ってたって関係ないよ。あなたといると、一日なんて一瞬で終わっちゃうから」
あなたの言う『ずっと』はわたしの思う『ずっと』ではないし、あなたの考える『永遠』もわたしの望む『永遠』とも違っている。
「…………だから、お願い。『死んだらお別れ』みたいに言わないで……」
嘘でいい。不確かでいい。
死後も続いていく縁で結びついているのだと、わたしをうまく騙してよ。おどけながらでも、かっこつけていてもいいから。
「そういうことか……。俺だって、できることなら死んだあとも一緒がいいよ。もし来世があるなら、そこでもまたきみと出会って恋して、一生そばにいたいに決まってる」
ふーっと長い息を吐いた彼は、頬にそっと手を添え、顔を傾けた。
降りしきるキスの雨が、かさついた唇を潤していく。萎れかけの花に水を与えるように満遍なく、真心を込めて。
誤魔化しだと言い掛かりをつけることもできず、嘘ではないかと怪しむ余地も残されていない。
わたしの永遠を頑なに拒んでおいて、こんな仕打ちはあんまりだ。
「じゃあ、どうして…………?」
渇いて渇いて、枯れる寸前だった心が息を吹き返す。せっかく回復したのに、第一声は疑問の形をした不満。
「簡単だよ。『死後の世界も来世も、あるかわからない』から。……保証できないんだよ、死んだあとのことなんて。だから、無責任に約束できない」
かわいさなんて欠片もないわたしの左手の小指と薬指を握って目を伏せる姿は、祈りを捧げているようだった。
0
お気に入りに追加
107
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!
奏音 美都
恋愛
まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。
「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」
国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?
国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。
「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」
え……私、貴方の妹になるんですけど?
どこから突っ込んでいいのか分かんない。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる