我々はうさぎではないので、乙女座の我が子にはまだ巡り逢えない

片喰 一歌

文字の大きさ
上 下
212 / 533
HONEY BUNNY

HONEY BUNNY<CXXVI>

しおりを挟む

「そう……だね?」

 『独り占めしたい』のも『ひとつになりたい』のも同根の願い。

 ようやくわかった。謙虚な人魚姫ではないわたしは、あなたの世界の一部などではなく、あなたの世界のすべてになりたいと願っている。
 
「なんで疑問形なの?♡ そういうことじゃなかった?」

 あたたかい声には寂寥感が潜んでいた。それだけでも『こころはひとつ』だと満足できていたならどれだけよかっただろう。
 
「そのふたつが繋がってるって気付いてなくて。なんか変なこと言っちゃってごめんね」

「確かにどっちも現実的には難しいことだけど、変ってことはないよ。『好きすぎて離れたくない』気持ちが大きくなりすぎたってだけでしょ?♡ いまなら邪魔もされないし、もっとくっついてられるよ♡♡」
 
 抱き寄せられたときに、彼の腹筋の溝にわたしの柔らかいお腹がぴったり組み合わさる錯覚をおぼえることがある。

 いまがまさにそうだった。肌と肌はよく馴染んで、長い時間触れ合っていても不快感が生じない。境界線がぼやけ、溶けていくようですらある。

「そうだね♡♡」

 気のせいだとわかっていても、お互いが対になるように生まれてきたように思え、また他者の入り込む隙なんてないと感じられる、幸せな勘違いが好きだった。

 ――――けれど、大きく膨らんだお腹では、決してそうは思えないだろう。

 いくら尋常ならざる独占欲と嫉妬心を持ったわたしといえど、彼とのあいだに出来た我が子を邪魔者扱いするのは本意ではない。
 
「…………ごめんなさい。今日ので妊娠してたらちゃんと生んで育てるけど、してなかったら、やっぱり当分はふたりでいたい。大好きなあなたとふたりっきりがいいの……」

 本当の本当は『当分』ではなく『一生』だけれど、これはあくまで隠し事であって、決して嘘ではない。そのうち気が変わる可能性だってあるのだから。

「元からそういう話だったし、謝らなくていいんだよ。……でも、もう終わりだと思って油断してないよね?♡♡ ここからが本番だってわかってる?♡♡ 俺は手加減する気ないし、妊娠してもしなくてもどっちでも恨みっこなしね?♡」

 掠れた声で予告して、ぺろりとひとつ、舌なめずり。矛盾だらけのわたしたちは、それでも愛し合うことをやめられない。
 
「大丈夫♡ 前言撤回なんてしないから、本気できてね……♡♡」

 見え隠れする男の人の表情かおに誘われて、勝手に口が動いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...