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HONEY BUNNY
HONEY BUNNY<CXXII>
しおりを挟む「しあわせ♡♡ ……だけど、なんか悔しい。あなたは簡単にわたしのことすっぽり包めるのに、あなたって意外と体厚くて、あんまりちゃんと抱き締められたことないの。『抱き締める』じゃなくて、どうしても『抱き着く』になっちゃうし」
両腕が回りきらないかといえばそうではない。抱き締めている形にはなる。けれど、なんとなくしがみついている感が出てしまうのが不服だった。
「『意外と』か。まぁいいけどさ♡ 悔しいと思ったのは、抱き着くだけだと自分のものにした感じがあんまりしないからかな?」
一方的に抱き着かれていた彼も腕を通して、ふたりの身体に空いていた微妙な隙間は完全に埋められた。
「わかってくれる?」
「俺もいざ結婚ってなって、婚約指輪をつけたきみを見てそう思ったし……。結婚指輪になってからも、少しも安心できないよ」
「そうなの?」
上目遣いに問い掛ければ、両頬を包まれ、双眸を覗かれて。
「そうだよ?♡ こんなにかわいいんだもん♡♡ 男なんて選り取り見取りでしょ?」
「全然そんなことないよ」
帰りたい場所なんて、どんなときもあなたの腕の中以外にないのに。
「…………外側も内側もきみは俺のものになってくれてるはずなのにね」
どう伝えたらいいか考えていると、彼はくいっと顎を上げて見下ろしてきた。
長い首がますます伸びて、おいしそうな喉仏に目を奪われる。わたしにはない器官は、彼が支配者側の性なのだということを突き付けてきて。
「またそういうこと言う……!」
と照れて胸を押したけれど、彼は弱々しく笑うだけ。
「ごめんね。いちいち確認してないと不安でさ……」
全身に両手が這い回る。わたしの身体の型を取っているかのようだ。
「一緒に出しに行った婚姻届も薬指に嵌めたこの指輪も……しようと思えばいつだって破棄できるから怖いんだよ。考えてみればさ、社会的な契約の効力なんて、あくまで外部に向けたもので、別にその人たちのために存在してるものじゃないんだよね。夫婦だとか婚姻関係だとか仰々しく言っても、そんなのただの法的な拘束で、永遠にきみの心を俺に縛り付けておける魔法じゃないし」
切なげな表情をした彼はいまにも消え入りそうだった。
「わたし、魔法なんてなくてもどこにも行かないよ?」
不安に駆られている様子もかわいらしいけれど、さすがにかわいそうになって、涙ながらに訴えた。
「ありがとう。誤解させちゃったかもしれないけど、きみはどこにも行かないって信じてる。それでも、あの頃の俺は、大好きなきみを誰にでもわかる形で俺のものにしたくて必死でさ……」
頭を撫でる? 胸に顔を埋めさせる? 他にはなにをしてあげられるだろう。
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