我々はうさぎではないので、乙女座の我が子にはまだ巡り逢えない

HONEY BUNNY

HONEY BUNNY<XCVII>

「ああ、そういうことか。優しいね♡♡ でも、きみは大体横向いて寝てるでしょ？　こう、ちょっと丸まる感じでさ……」

　身体を丸めて瞼を閉じた胎児のような寝相に目を細める。

　彼ほどかわいらしいものではないと思うけれど、指摘されたとおり、ひとりで寝るときには横を向いていることが多かった。
　
「そうだね」

「きみも背中向けておんなじようにしてみてくれる？」

　名残惜しかったけれど、言われたとおりに身体の向きを変える。
　
「うん。ええと……こんな感じかなぁ」
　
「そうそう♡ 俺はすやすや寝てるきみをこうして後ろからぎゅーってするのが好きだから、全然気にしないでいいんだよ？♡♡」

　穏やかに彼の胸が上下する。その動きで呼吸が徐々に深くなっていくのがわかった。

「そっかぁ」
　
　眠っているあいだにこんな一幕が繰り広げられているとは思いもしなかったけれど、安眠を提供できているのなら、それに越したことはない。
　
「じゃあ、このまま寝よ？♡♡」

　おとなしく抱き枕になったまま、背後の彼の耳に届くように言った。
　
「いいの？♡ ありがとう♡♡ ……あ、でも寝る前にひとつだけ…………♡」

　片頬に落とされたキスが胸を焦がす。咄嗟に振り返ろうとしたけれど、彼は定位置に戻ってしまったあとで。
　
「はい、おやすみ♡♡」

「わたしだってしたいのに、あなただけずるい……♡」

「きみもしていいよ、おやすみのキス♡」

　目的を達成し、さっさと就寝体勢に入った彼に不満を漏らしても、その腕は依然、わたしをきつく抱き締めている。

「……させてくれる気、絶対ないくせに」

　小さく漏らすと、うなじを掻き分けた唇の感触。
　
「ごめんね♡ させてあげたいし、してほしいけど……もう離したくなくなっちゃった♡♡」

　そう言っておけば我を通せると知っていて、あなたは瞬時に言葉を選ぶ。少しも嫌だと思えないのは、声に込められた熱情がすべて偽りのない本心だと告げているから。

「……わかった、いまは我慢するね。その代わり、起きたらおはようのキスしてもいい？♡」

「もちろんいいよ♡♡ 楽しみにしてるね♡」

「ふふ、わたしも楽しみ♡ じゃあ……おやすみなさい」　　
　
「うん。おやすみ♡」

　二度目の挨拶を聞き届けてからゆっくり瞼を下ろし、暗闇にぼんやり浮かぶ壁とさよならする。いつもどおりの視界だけれど、全身はぬくもりに包まれていて、意識は急速に眠りの国へと落ちていった。