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HONEY BUNNY
HONEY BUNNY<LXXXVI>
しおりを挟む「ん……♡ ねぇ、ここではだめだよ……?」
唇を丁寧に拭ったあと、当たり前のように侵入してきた舌先を押し返す。深いキスをするだけなら構わないけれど、わざわざ持っていたフォークを置いてから触れてきたのはそういうことだと思ったから。
「キスとハグだけは許して? それ以上のことはしないから……」
道の脇に捨てられてしまった子犬のような目で真っ直ぐに懇願され、すべてのスキンシップを拒否したと誤解させてしまっていたのだと気付く。
「それくらいなら、わたしもしてほしい♡♡」
フォークをそっと置いて、椅子の端に座り直した。できるだけ彼のそばに行きたくて。そっと身を寄せれば、ちゅっと軽めに触れられた。
「甘えんぼさんだなぁ♡♡」
水槽の中の魚のように口をぱくぱくさせて『もっとして』とねだったら、すぐに次弾が飛んでくる。
「そうだよ?♡」
触れては離してを繰り返し、何回になったか数えるのをやめた頃、ようやく彼が離れていった。けれど、その瞳はまだ寂しげな光を宿している。
「でも、あなただってそうでしょ?♡」
自分から濃厚なスキンシップを拒否したくせに友愛とさして変わらない触れ合いに飽きたわたしは、思いっきり抱き着いて彼の口に舌を押し込んだ。
半開きの脱力状態で簡単に侵入を許してくれたということは、きっとそれも予測していたのだろう。調子に乗って、唇をつけたままで舌を絡ませ合った。
「そうだね♡♡ ……でも、意外だったなぁ」
しみじみと呟く彼の声はわずかに色めいている。
「意外って?」
「赤ちゃんのこと♡ やっぱり欲しくないって言い出すと思ってたから、きみの情熱的なおねだりがまた聞けるなんて予想してなくてさ……♡」
後ろから回ってきた手は腰からお尻のあたりを大きく擦る。平熱の高さに加え、摩擦によって生み出される熱も結構なもので、一時的に鎮まっているわたしの中の魔物が目覚めかけているのを感じた。
鏡に映し出された自分の姿を反芻する。そのとき放った言葉もすべて脳裏に焼き付いていた。衝動的なものではなく迷った末に出した答えだったけれど、詳細はおろか結論すら彼には伝えていなかった。
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