160 / 533
HONEY BUNNY
HONEY BUNNY<LXXIV>
しおりを挟む「あなた以外の顔、こんなに近くで見たことない♡」
元カレたちの顔は完全に記憶から抹消されていた。思い出せることがあるとすれば、思いやりに欠けた言葉と愛のない行為という有様だったけれど、それももう過去のこと。
身も心も彼に満たされて、上書きはほとんど完了したといっていい。そもそも、キスのときに瞼を開けてまで見ていたいと思わせてくれたひとは最初で最後だ。
「…………そっかぁ。じゃあ、それ以上は近付いちゃダメだよ。お鼻なんてもう少しでついちゃいそうだし。きみとキスしていいのは俺だけなんだから……♡♡」
彼にも思うところがあったのか、ひときわ優しい声で説かれた。そして、わたしの頭に寄せられた顔がほとんど隠れてしまったと思った瞬間、そっと髪に口付けられる。
声に出してはいなかったけれど、『俺だけを愛して』という彼の想いが伝わってくるような気がした。
「あなたも鏡のわたしにやきもち焼いてるの? とってもかわいい♡♡」
伴侶が自分以外の何者かと唇を重ねることをよく思えないというのは理解できたけれど、鼻先がちょんと触れる程度の色恋とは無縁の些細な接触さえ厭う嫉妬深さがたまらない。
「キスしたくなっちゃったのわかってくれたんだ♡♡ きみのほうがよっぽどかわいいよ?♡」
首を限界まで曲げ、つりそうな姿勢をとってみれば、正しくその意味を受け取った彼が頬に手を添えて唇を啄んだ。
「そんなことない♡ 絶対あなたのほうがかわいいもん♡ でも、時々かわいすぎて困っちゃうから……そんなふうに見つめないで?♡」
「……って言われても、きみのこと見てたら自然とこういう顔になっちゃうし。俺の顔、『かわいくて大好き』なんじゃなかったの?♡♡」
いまだに信じられないほどド真ん中の美貌に視界をジャックされる。
『想うひとの見つめる先に自分以外のひとがいるとわかっていても触れたい』と願う歌も、『誰かのことを想っている横顔でも素敵だった』と追憶する歌もよく聴いたものだけれど、やはりわたしとはかけ離れた感覚だ。
「うん、すごく好き♡♡」
わたしは他の人を向いている彼ではなく、わたしだけを見つめる彼が好き。横顔などでは満足できない。その心、その視線を常に独占していたいの。だから、そのために多少の苦難はものともしない。できっこないのに、無理のある姿勢だっていつまでも続けていられそうだと思った。
0
お気に入りに追加
106
あなたにおすすめの小説
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
【R18完結】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる