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HONEY BUNNY
HONEY BUNNY<L>
しおりを挟む「気持ちよくなっちゃうと、このあとお返しにあなたのこと洗えなくなっちゃうから……えっと、なるべくお手柔らかにお願いしたいなぁ、って」
これ幸いと寄せられた耳に向かってこしょこしょ耳打ちする。とても刺せたものではないへなちょこな釘だったかもしれないけれど、彼にはあざといくらいの物言いがよく効くと心得ていたから。
「なんだ、そんなことか♡ かしこまって言わなくてもいいのに♡♡」
目論見どおり、彼は上機嫌でわたしの髪のブラッシングを始めた。
「それでも、わたしにとっては死活問題だから……お願いね?」
「確かに、きみのことふにゃんふにゃんにしちゃったら洗ってもらえないもんね。楽しみが減っちゃうし、そのためにも気合い入れて我慢しないと」
「『気合い入れて我慢する』ってちょっと面白いね。初めて聞いたかも?」
「そう? 俺、一緒にお風呂入るとき大体そんな感じだよ」
そのあとは、いつもと同じように洗髪してもらい、終わったタイミングであることを持ちかけてみた。
「……さっき、洗ってるときはえっちな触り方しちゃだめって言ったけど、あとでだったらしてほしいくらいなの。わたしがあなたのこと洗い終わったら、いっぱい触ってくれる?」
か細い声は頼りなかったけれど、なんとか最後まで言い切れた。頭皮と一緒に心もほぐされて、一時的に開放的になっているのかなぁ……なんて考えていたら、どこからともなくいい香りがしてきた。ここに来てすぐに漂ってきた、あの不思議な香りだ。
「喜んで♡♡ きみからそんなこと言ってくるなんて珍しいね♡」
見ると、彼は鼻歌を歌いながら見事な泡を作っている。近くには先ほどシャンプーラックに見つけた新入りとおぼしき容器。あれはボディソープだったのか。
「なんだか、すごく……触ってほしい気分で……♡♡ あんなにいっぱいしてもらったのに、まだ足りないなんて恥ずかしいんだけど…………」
そんなことを考えているうちにも、お香を立てているようなえもいわれぬ香りは浴室中に満ちていく。知覚するのが遅れただけで、かなり前からこの香りに包まれていたのかもしれない。
「きみのそれは計算……なんかじゃないよね。天然でこんなにかわいいんだからかなわないよ。どこまで俺のこと振り回してくれるんだろう♡♡」
お湯から上がってもカラダは熱を持ったまま。保温容器にでもなった気分だ。彼の立てた泡よりふわふわになってしまった頭では原因究明も儘ならない。わたしは火照るカラダのみならず、あとからあとから湧き上がってくる底無しの欲望さえも、のぼせによるものだと思い込んでいた。
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