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HONEY BUNNY

HONEY BUNNY<XLIV>

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「うん。だって、普通の夫婦って月に一回シてたらいいほうみたいだよ? 平均は月二くらいなんだって」

 すかさず根拠として提示したのは、ついこのあいだ入手したばかりのデータだ。あまりに信じがたく、仰天してしまったことも記憶に新しい。禁欲生活など拷問に等しいわたしたちにとって、別世界の事情を覗き見るようでとても興味深くもあったけれど。
 
「……あぁ。日本の夫婦は全体的にセックスレスらしいね。俺たちには無縁な言葉だけど、どこのご家庭にもいろいろあるだろうし……じゃなくて! それ、どこ情報?」

 途中までの淡々とした調子が一転。両肩を掴まれ、問い質される。

「えぇと、友達? あれ、違ったかなぁ。なにかの番組だったかも?」

「なるほど……。昼間の主婦向け番組とか女の人たちのトークって結構エグいもんなぁ。なんかこう……そういう話題に限ったことじゃないけど、やたら人間的というか下世話な方向にディープというか。たぶん、もっと突っ込んだ内容の特集もしてたんじゃない?」

 顎に手を当てた彼は、ホームズも真っ青の名推理を披露した。

「わぁ。よくご存知で……」

「知らなくても、なんとなくは想像つくって。禁止とまでは言わないけど、ほどほどにね? きみは素直で影響されやすいし、普通はどうとかって気にしちゃうタイプでしょ?」

「気にしすぎもよくないってわかってるんだけどね」

 彼と出会う前、目立つことを避けて生きてきた頃の癖は完全に抜け切ってはいなかった。『平均から著しく外れている』と認識するや否や、それまで問題なく行ってきたことにも二の足を踏んでしまうようになったり、楽しめなくなってしまったりする面倒な悪癖が。

「夫婦の事情だって夫婦の数だけあって、スタンダードもノーマルもないんじゃないかなぁとは思うけど……きみが気になるならそれでいいさ。不安なら、俺が消してあげられるように頑張ればいいだけだし」

「ふふ、ありがと。頼りにしてるね」
 
 穏やかな鼓動を刻む胸にそっと手を置くと、彼は決まり悪そうに口をもごもごさせた。
 
「…………本当はあんまり変な情報仕入れてほしくないってだけなんだけど」

「そうなの?」
 
「行動を制限するようなことは言いたくないけど、きみにいろいろ教え込むのは俺がいいというか……要するにただのわがままだから、聞くも聞かないもきみの自由だけどね♡」

 彼が彼自身の征服欲をよいものとして捉えていないことは明白だ。そのくせ、それが制御のきかないものであることも。

 しかし、わたしの目線は再び唇の一点に下降していた。わたしたちは呆れるほどに似た者同士だ。互いを互いの色で染めたがって憚らない。
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