我々はうさぎではないので、乙女座の我が子にはまだ巡り逢えない

片喰 一歌

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HONEY BUNNY

HONEY BUNNY<XXXVI>

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「それにだよ。また楽観的すぎて呆れられるかもしれないけど……そのあたりは少しずつでいいんじゃないかな。俺だってまだ全然だよ、親になる覚悟なんて」

「あなたが言うならそうなのかもしれないけど……」

 塞ぎ込むわたしを包み込むように彼は言葉を重ねる。

「無理に前向きになれとは言わないさ。でも、最初から完璧な親なんていないよ。ちゃんとしないといけないと思えるきみはすごいし、その気持ちも大切なものだけど。そこまで思い詰めなくていいし、いますぐ変わらなきゃならないってこともないんじゃない? 俺たちの子はまだ生まれてもないし、たぶんまだ出来てもないよ?」
 
「……だとしても、あなただって楽しみにしてくれてたでしょ?」

 ふたりの子について語ったときの彼は、わたしを透かして守るべきものを見つめていた気がするのだ。いつか出会うはずの命を。まだ見ぬ我が子を。

 なかなか言い出せなかった理由としてそのことを挙げるのは憚られたけれど、複数ある理由のうちのひとつであったことは確かだ。期待させるだけさせておきながら、なんて残酷な仕打ちなのだろうと、自分で自分に失望してしまったから。

「いろんなこと想像してわくわくしたのは確かだけど、なにより大切なのはきみの気持ちでしょ。『妊娠中の負担は全部きみに行く。代わってあげたくても代われない』って前にも話したように、俺の気持ちじゃなくてきみがどうしたいかのほうがよっぽど大事。だから、ほっとしてるくらいだよ。今日のきみは別人みたいだったから。体調とか色々あるにしても、『急にそんなに変わるものかな?』って」
 
 彼はふらりと視線を彷徨わせたあと、目の奥をじっと覗き込んできた。言葉にこそしていなかったが、わたしが早まっているのではと気を揉んでいたようだ。

「……変わるよ。個人差がすごくあるだろうけど、わたしは毎月かなり左右されちゃうほう。こんなに切実に思ったことなかったから、受け入れるまでに時間かかったけど。『やっぱりあなたとふたりでいたい』んだって、それがわたしにとっていちばんの幸せだって気付いてからも、『赤ちゃん欲しいなぁ』って気持ちが消えないまま残ってる」

「そっか…………」

「……ううん。きっと、気持ち以上にカラダが欲しがってるの。本当に動物みたいで恥ずかしいけど。これって一時的なものなのかなぁ? あと何日かすれば、そんなことなかったみたいに消えてくれると思う? もう自分でもわからないよ……」

 こんなことを訊いても困らせるだけなのに、押し殺してきた不安が次から次へと溢れて、言葉に、涙に変換されていく。

「……じゃあさ、前聞いたことと同じこと、もう一回聞いてもいい?」

 なにを訊かれてしまうのだろうと身構えたけれど、観念して恐る恐る頷くと。

「きみは『赤ちゃんが欲しい』と思ってるの? それとも、『赤ちゃんが欲しい』?」

「もちろん、あなたとの子だから欲しいの。そうじゃないならいらない。他の人の子なんてかわいがれないし、絶対に欲しくないよ」

 彼以外の人と……なんて考えただけで吐き気がする。

「即答だったね。ありがとう。いまのきみはカラダとココロが全然別のほうを向いちゃってて、どっちに行けばいいか迷ってる。それですごく苦しい状態が続いてるんだろうね」

 彼が眉を曇らせて言う。その言葉を聞いて、このひともわたしとは違う理由で親には向いていないと思ってしまった。彼はどんなときもわたし優先で物事を考えているから。
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