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HONEY BUNNY
HONEY BUNNY<XXIX>
しおりを挟む「……うん、わたしもそう思う♡♡ それとね、あなたがいい加減なこと言ってるわけじゃないのは最初からわかってたよ」
身体を完全に彼のほうに向けて、思わずがばっと抱き着いた。
「そっか。ありがとう♡」
愛しさを凝縮したような彼の優しい声色に、回された腕に、またしても気持ちが揺らぎ始める。『本当は子どもなんて欲しくない』などと考えてしまう未熟な部分にようやく気付いて、それをどうにか打ち明けようとしている最中だったはずが、いまのわたしは『彼は我が子と会えることを楽しみにしてくれているのに、いまさら本心を告げていいのか』という思いに支配されていた。
「でも、体質とかも遺伝するなら、そんなに心配しなくても大丈夫なんじゃないかな? きみと俺の子だもん、かなり体力あると思うよ?♡♡」
「……それは、確かにそうかも?」
笑顔の裏でいま一度、自分の心と対話する。愛しいひとの子を望む気持ちといつまでもふたりで生きていきたい気持ち。何度考えても結論が出せないということは、どちらも嘘ではないと思っていいはずだ。
「でしょ?♡」
だとしたら、どちらの気持ちがより強いのか。彼の視線の向く先がもうひとつ余分に増えてしまうことと彼と見つめ合えない時間が多くなること、その両方を歓迎できないであろうことははっきりしている。なにせ、鏡に映った自分自身に妬心を抱くほど狭量なのだから、わたしは。
「うん♡ やっぱりわたし、あなたのこと本当に大好き♡♡」
答えなんてとっくに出ている。悩む素振りで最初からわたしの心はひとつだったのかもしれない。かわいくない自分を塗りつぶすように、鼻にかかった声を出す。わたしはあなたが例えてくれたようなかわいい動物たちとは似ても似つかないと思いながら。
「……『大好き』って、どのくらい?」
お決まりになっている『俺も大好き』ではなく、返ってきたのは全然違う質問だった。
「どのくらい? あなたがいれば、他になんにもいらないかも」
目に見えるものや数を数えられるもので例えるのは違う気がして、そんなことを口走っていた。
「……なんて思っちゃったりして」
「俺も、きみさえいれば他には誰も必要ないんだろうな……」
漏れ出した本心をさも冗談であるかのように急いで取り繕ってみたけれど、光の消えた目でわたしを見下ろす彼は、なにか他のことに気を取られているようだった。
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