我々はうさぎではないので、乙女座の我が子にはまだ巡り逢えない

HONEY BUNNY

HONEY BUNNY<XXV>

「立てる？」

「うん」　
　
　唇を解放され、ぐいっと手を引かれて立ち上がったはいいが、急だったせいかふらついてしまう。

「おっと」

　彼が咄嗟に支えてくれたおかげで転倒は免れたものの、まだ少し目がちかちかする。

「ありがと」

「俺も急に立たせちゃったし。座ってなくて大丈夫？」

「うん、そこまでじゃないよ。でも、もうちょっとだけこうしててもいい？」

「もちろん。いつまででも♡」

　鬱陶しい点滅が収まると、美しい肉体を惜しげもなく晒した彼がクリアな視界に飛び込んできたから、早くいま以上の触れ合いに戻りたくなってしまって。

「それはわたしが困るよ。あなたの目に映ってる『いつものわたし』を教えてくれるんでしょ？　ただくっついてるだけじゃなくて、さっきみたいなことしたいの……♡♡」

「そうだったね♡ でも、まだちょっと心配だから……こうして後ろからぎゅーってしちゃおうかな♡♡」　

　と彼は素早くわたしの背後に回り、腕を回してきた。接触面積は一気に増えたけれど、こんなものじゃないでしょう、わたしたち。全身使って絡み合いたいの。

「心配しすぎだよ。……でも、ありがとう♡♡ ぎゅーってしてもらうの好き♡」

「どういたしまして♡ 俺も大好き♡♡」

　彼はうなじに鼻を近付けて大きく息を吸い始めた。
　
「……いいにおいだね♡」

「やっ♡ そこ、そんなに嗅がないで？　いっぱい汗掻いたあとだから……」

「だからいいのに♡ 汗で香水やボディクリームが流れて、きみの香りが強くなるのが好きなんだけどなぁ♡ いまはこのくらいにしておくよ。ここは服着ても大体出てるところだもんね。他のにおいと混ざっちゃうのがちょっと残念だけど」

　離れていく前に一度だけ、判を押すように顔が押し付けられる。

「んぅ……♡♡ 服着てても、汗搔いてるときはだめ……」

「はいはい、わかったよ。善処します♡」

　なんて、返事だけは立派だけれど。

「絶対守る気ないでしょ。…………嗅ぐのはいいけど、ちょっとだけにしてね？」

「やった♡ なんだかんだできみって俺に激甘だよね。最初は拒否しても、最後には折れてくれる♡♡」
　
　耳輪に高い鼻が当たった。耳のすぐそばで話されると、熱く湿った息と声が直接脳に届けられているような錯覚に捉われて、思考がぐずぐずになってしまう。冷蔵庫の片隅に忘れ去られたまま、熟れすぎて発酵しかけた果実のように。