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HONEY BUNNY
HONEY BUNNY<XXIV>
しおりを挟む「気になる? 俺の見てる『いつものきみ』の顔、確かめたい?♡♡」
彼はわたしに考え直す隙も与えずに畳み掛けてくる。こちらの思考なんて筒抜けなんだろう。『時間がない』と無意味に急かし、思い描くシナリオへと誘導する典型的な悪役の手口。
脳裏を過ったのは、昔観たアニメーション映画に登場する海の魔女。彼女も言葉巧みに主人公を唆し、契約書にサインを書かせていた。対価対価と魔女はしきりに繰り返していたけれど、彼女は意図して濁点を抜き取っていた気がしてならない。代価と訂正したところで、あの子は踏みとどまることなどなかっただろうけれど。
「……すごく」
わたしも主人公の彼女と同じ。その先に待ち受けている運命を予測できていても、相手のペースに呑まれて魅力的な誘いを撥ねのけることができない。迷っても悩んでも肯定するほかないのだ。
「じゃあ、一緒に確かめよう。きみが俺のいちばん好きなきみになっていくところを。俺の見せたかったきみの姿を……♡♡」
「それって自由自在に操れるものなの?」
「さすがの着眼点だね♡ うーん……。操れるっていうか、俺の行動で変化するって感じ?」
「なるほど? でも、どっちも変わらない気がするよ?」
思わず吹き出すと、彼もつられて朗らかに笑う。
「あはは、そうかも♡ ちなみにだけど、いまはキスしたあとに近いかな。きらきらしたお目目に涙浮かべて、表情だけでも誘ってるのかなぁって思うくらい♡ だけど、それだけじゃなくてさ。全体的に距離が近くなるんだよ。密着度が高くなるというか。スイッチが入っちゃうのかな?♡ そういう態度とか仕草とかもひっくるめて『俺だけが知ってるきみ』って感じがして、大好きなんだよね♡♡」
「じゃあ、あなたにとっての『いつものわたし』って…………」
彼と抱き合っている最中の、おそらく目を背けてしまいたくなるほどに乱れている姿。
「気付いてくれたみたいだね♡♡ そうだよ。俺が見せたいのは、そのかわいいお顔だけじゃない。なんのために余裕でふたりの全身が映るサイズにしたと思ってるの?♡ きみが俺に愛されてるところ……じゃないな。きみと俺が愛し合ってるところ、一緒に見ようよ……♡」
今夜も彼がわたしのカラダを洗ってくれるのは随分先のことになりそうだと思いながら、上からのキスを受け入れた。
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