上 下
57 / 533
HUNNY BUNNY

HUNNY BUNNY<Ⅰ>

しおりを挟む

「猫、嫌いだったっけ?」

「いいや? 嫌いじゃないよ。でも……そっかそっかぁ…………♡♡」

 ひとり納得した様子の彼だったが、わたしにはなぜそんなに楽しそうにしているのかさっぱりわからず、まばたきを繰り返していると、柔らかな声が耳に届けられた。

「それなら、これも愛撫じゃなくて戯れ合いの一環ってことでいい?♡」

 彼は百人に訊けば百人全員が『かわいい』と即答するであろう愛嬌の持ち主だが、わたしの場合、その上からさらに大好きフィルターがかかってしまっていた。卒倒してしまいたくなるほど馬鹿げた表現だが、そうとしか言い表せない――――解けない魔法のようなもの。

 『恋は盲目』を地で行っていること自体は構わないが、そのためにたびたび事態を軽く見積もる癖がわたしにはあった。いまもそうだ。胸元に顔を埋める愛らしい子猫に他意はない……だなんて、そんなはずがないことはこれまでの経験からわかっているのに。
 
 だが、これも仕方のないことだ。基本的にわたしはこの男に騙されたい女なのだから。いいように言いくるめられて、罠にかかりたい。そこで極上の罰を受けたい、と……心の底から望んでしまっている掌上の被食者は、正しく墜ちるための準備を早急に済ませた。両目いっぱいにハートマークを浮かべて何度も頷く女を見つめる男の目が、ぎらついた欲を宿していることにも気付かずに。

「きみには俺が実物よりだいぶかわいく見えてるみたいだね♡ そうだったらよかったのかもしれないけど……同じネコ科でも、もっと凶暴なやつかもよ。きみは案外、猛獣のほうがお好みかな?」

「そう? あなたはいつもかわいいよ?」

 わたしがトークアプリのスタンプのように気軽に多用するその評価を彼はあまり快く思っていないのでは……と薄々感じてはいるが、同時に彼自身も甘いマスクを使いこなしている。そんな頼りない免罪符を握り締めつつ考えた。

 ネコ科の獰猛な動物といえば、やはり百獣の王だろう。抱き合っている最中に肩口や首筋に噛み付くことのある彼にはライオンじみたところがあると言えなくもない。たまにされるその縫い止めるようなキスが好きだと、過去に一度でも伝えたことはあっただろうか。嫌がる素振りで美しい背中に傷を付けるばかりにはなっていなかっただろうか。

 しかし、そんな思考も彼によって中断される。顔を上げて背筋を伸ばした姿はとても凛々しくて、ようやく彼がわたしに『実物よりだいぶかわいく見えてるみたい』だと言った意味を理解したところだったというのに、発言を取り下げるよりも先に唇を優しく啄まれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

これ以上ヤったら●っちゃう!

ヘロディア
恋愛
彼氏が変態である主人公。 いつも自分の部屋に呼んで戯れていたが、とうとう彼の部屋に呼ばれてしまい…

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

処理中です...