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HUNNY BUNNY
HUNNY BUNNY<Ⅰ>
しおりを挟む「猫、嫌いだったっけ?」
「いいや? 嫌いじゃないよ。でも……そっかそっかぁ…………♡♡」
ひとり納得した様子の彼だったが、わたしにはなぜそんなに楽しそうにしているのかさっぱりわからず、まばたきを繰り返していると、柔らかな声が耳に届けられた。
「それなら、これも愛撫じゃなくて戯れ合いの一環ってことでいい?♡」
彼は百人に訊けば百人全員が『かわいい』と即答するであろう愛嬌の持ち主だが、わたしの場合、その上からさらに大好きフィルターがかかってしまっていた。卒倒してしまいたくなるほど馬鹿げた表現だが、そうとしか言い表せない――――解けない魔法のようなもの。
『恋は盲目』を地で行っていること自体は構わないが、そのためにたびたび事態を軽く見積もる癖がわたしにはあった。いまもそうだ。胸元に顔を埋める愛らしい子猫に他意はない……だなんて、そんなはずがないことはこれまでの経験からわかっているのに。
だが、これも仕方のないことだ。基本的にわたしはこの男に騙されたい女なのだから。いいように言いくるめられて、罠にかかりたい。そこで極上の罰を受けたい、と……心の底から望んでしまっている掌上の被食者は、正しく墜ちるための準備を早急に済ませた。両目いっぱいにハートマークを浮かべて何度も頷く女を見つめる男の目が、ぎらついた欲を宿していることにも気付かずに。
「きみには俺が実物よりだいぶかわいく見えてるみたいだね♡ そうだったらよかったのかもしれないけど……同じネコ科でも、もっと凶暴なやつかもよ。きみは案外、猛獣のほうがお好みかな?」
「そう? あなたはいつもかわいいよ?」
わたしがトークアプリのスタンプのように気軽に多用するその評価を彼はあまり快く思っていないのでは……と薄々感じてはいるが、同時に彼自身も甘いマスクを使いこなしている。そんな頼りない免罪符を握り締めつつ考えた。
ネコ科の獰猛な動物といえば、やはり百獣の王だろう。抱き合っている最中に肩口や首筋に噛み付くことのある彼にはライオンじみたところがあると言えなくもない。たまにされるその縫い止めるようなキスが好きだと、過去に一度でも伝えたことはあっただろうか。嫌がる素振りで美しい背中に傷を付けるばかりにはなっていなかっただろうか。
しかし、そんな思考も彼によって中断される。顔を上げて背筋を伸ばした姿はとても凛々しくて、ようやく彼がわたしに『実物よりだいぶかわいく見えてるみたい』だと言った意味を理解したところだったというのに、発言を取り下げるよりも先に唇を優しく啄まれた。
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