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グッド・ナイト・タイム

グッド・ナイト・タイム<Ⅻ>

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「あのね? 最近あんまり一緒にゆっくりできてないでしょ?」

「そうだね。寂しくさせちゃってごめん」

 彼はふたりの時間を十分に持てていないことに負い目を感じているらしく、憂い顔でわたしの頭を撫でる。

「え、ううん! 違うの違うの! 今日だって疲れてるのに、何回も付き合ってくれてありがとね。……改めて言うと恥ずかしいなぁ」

 誤魔化すように大袈裟に笑うと、彼は首を振って答えた。
 
「明日は休みだし、そんなに気にしないでいいのに。……というか、俺も限界だったから、きっときみが誘ってこなかったとしても、たぶん襲っちゃってたと思うよ」

 と爽やかに言うものの、その内容はなかなかに破廉恥だ。

「……ほんと?」

「ほんと。だから、ね……? 教えてくれる? きみがなにを望んでるのか」

 彼は両手でわたしの頬を挟んで、じっと見つめてきた。ほとんど力は込められていなかったけれど、顔を背けることだけは許してくれそうにない。その目に促され、わたしの口は欲望を綴り出す。

「いつもより……その…………いっぱいしたい、なぁ……」

 言ってしまった。あとは彼の反応を待つのみだ。何度も抱かれたあとでこんなお願いをするなんて、とは思ったけれど、わたしは全身で彼を感じられる時間に飢えているのだから仕方ない。

「……今日よりも、いっぱい?」

 彼はもちもちとわたしの頬を弄びながら言う。
 
「…………引いた?」

「全然。俺はきみといられるならなんだって嬉しいけど……どこか出掛けたりしなくていいの?」

 今度はわたしの髪を自分の指にくるくる巻き付けている彼は、見るからにとても楽しそうだ。そういえば、好みの髪質だとか言っていたかもしれない。

「うん。もうイルミネーションはいろいろ連れて行ってもらったし、どこも人がいっぱいだろうから、おうちであなたとふたりっきりで過ごしたいなぁ。それに、どっちみち予約してたケーキ取りに行くでしょ?」

「そうだったね。忘れてたよ。じゃあ、帰ってきたらすぐにパーティー始めちゃおうか。そしたら、全部前倒しにできて…………」

 続きを聞くのが恥ずかしくなったわたしは、思わず彼の口を覆ってしまった。勢いあまって手のひらが唇に当たってしまったけれど、もう一度彼のほうから口付けられ、手を引っ込める。

「とっておきのお酒も用意してあるんだ。特別な日くらいは、お昼から飲むのもアリだよね」

 と、グラスを傾ける仕草を見せる彼。他の人が同じことをしても気障なだけなのに、彼がするだけでどうしてこんなにかっこよくなってしまうんだろう。

「わぁ、楽しみ! あなたの選んでくれるお酒、いつもおいしいから。あ、おつまみ作ったほうがいい?」

「きみの手料理はなんでも好きだし、ぜひお願いしたいところだけど……。せっかくだし、さぼっちゃってもいいんじゃない? たまには、なにもしないでいい日を作るのもいいものだよ。お酒と一緒につまむものは、予約したケーキ取りに行くついでに、百貨店に寄って見繕ってくるなんてどう?」

「あ、それがいい! あなたって、どうしてそんなに次から次へと楽しいこと思いつくの? すごいなぁ」

 彼が交際中からわくわくするデートプランで毎回楽しませてくれていたことを思い出す。

「俺は二日間フルに味わい尽くすつもりでいるからね。休みもお酒も、きみのカラダも……♡」

「えっ」

 予想だにしない答えに石化したわたしを見て、彼は吹き出した。彼の言動は予測不可能で心臓に悪い。

「ごめんごめん、抱き潰すつもりはないから安心してよ」

「だよね。びっくりしちゃった」

 口ではそう言ったけれど、あなたが満足するまで愛してほしいなんて思ってしまったりもして。

「……でも、体調は万全にしておいてね? 俺も、きみからのプレゼントは『きみ』がいいから……ふたりぶん、ってことで」

 ファンシーな効果音が付きそうなとびきりかわいい笑顔から放たれたのは、とんでもない台詞だった。それなのに、立てられた二本の指を上の空で眺めるわたしは胸の高鳴りを抑えられず、催眠術にかかってしまったかのように頷いた。
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