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グッド・ナイト・タイム
グッド・ナイト・タイム<Ⅹ>
しおりを挟む「ところで、きみはどうなの? わざわざ訊いてきたってことは、考える機会があったってことだよね。俺の赤ちゃん……欲しい?」
彼は全身に隈なく口付けながら、思い出したように問う。ただ『赤ちゃん欲しい?』とだけ訊かれていたら、迷っていたのに。わたしがあなたの赤ちゃんを欲しくないはずがない。
「その訊き方はずるいよ。あなたの赤ちゃんだよ? 欲しいに決まってる……」
お腹の奥が切なく震えた。本当は理性なんて蹴飛ばして、どろどろに溶け合ってしまいたい。でも、正直言って、わたしはまだその先まで考えられない。
「……あははっ! ごめんごめん。こんな言い方したら、ノーとは言えないか。嬉しいよ……♡」
下腹部に到達した唇。吹きかけられた息はとても熱くて、くらくらした。次の瞬間、脚を開かれ、敏感な部分を擦られる。
「でも、いろいろ考えちゃって。まだ当分は、ふたりでいたいかなぁ……。ごめんね」
「どうして謝るの?」
彼は局部を口で愛撫しながら合間に会話を続けている。わたしはその舌さばきに溺れないように意識を保つのがやっとだ。変な声を出していないのは奇跡と言ってもいい。
「その気にさせちゃってたら悪いと思って」
「そんなこと気にしなくていいよ。ちゃんときみの準備ができたら言ってね? そのときがベストタイミングだと思うし……かわいいおねだり期待してるよ♡ 一生ふたりがいいとしても、俺はウェルカムだから」
と言った彼は、全身でわたしを包み込んだ。
「ありがとう。大好き……」
「…………続き、しよっか?」
その言葉を合図に、再び重なり合った身体。直前の話題が話題だっただけに興奮していたのか、とても盛り上がったわたしたちは、あっという間に果ててしまった。
「そういえば、前から不思議だったんだけどさ。誕生日のプレゼントは即決なのに、クリスマスプレゼントだけ悩むのって、なにか理由があるの?」
ひと足先に息を整えた彼は、まだ惚けているわたしに優しいまなざしを向ける。隠し事はしたくないけれど、あまり話したいことでもなくて、悩んだ挙げ句ひねり出した答えはあまりに簡素なものだった。
「クリスマスはわたしの誕生日じゃないし……あなたと出会う前はあんまりいい思い出がなくて」
「なるほど?」
はっきりしない説明にも拘らず、彼はわたしの話に耳を傾けてくれている。
「一人で過ごすのも当たり前だったし、そうじゃないときは仕事が忙しいだけの日で……」
「もしかして、無理させちゃってた? どうせなら貰って嬉しいものあげたいと思ってなにがいいか聞いちゃってたけど、こっちで勝手に決めたほうがいいのかな」
しょんぼりした顔がかわいかったものだから、胸を押し付けるようにぎゅぎゅっと密着してしまう。
「ううん。毎年ちゃんと希望聞いてくれるの嬉しいよ。……あ、そうだ。今年もイブから一緒にいてくれるって言ってたよね?」
かなり前から聞いていたクリスマスの予定を思い出して、もう一度確認する。事務的に尋ねるつもりが、弾んだ声はわたしの気分をそのまま表していた。
「うん、そのつもりで空けてあるよ。二十四日から二十五日までの二日間、ずっと一緒にいられるように。急な用事でも入っちゃった?」
「違うよ、どっちもちゃんと空いてるから大丈夫。毎年、一緒に過ごしてくれてありがとね? クリスマスにひとりじゃないのが嬉しいから、それ以上欲しいものが浮かばないだけだよ。それがいちばんのプレゼントっていうか」
抱きしめる腕に力を込めると、彼は安堵したように目元を緩めた。そんな彼をよそに、わたしの意識は過去のクリスマスへと飛んでいく。
幼少期から高校生までは暗い部屋でひとりきり。二十五日の朝には部屋の前にぽつんとプレゼントが置かれていたが、本当はそんなものより――――『そんなもの』だなんて言ってしまうのは、せっかく用意してくれた物に対して失礼だとは思うが――――忙しい両親と団欒の時間を持ちたかった。数十分程度で構わなかったが、その願いは遂に叶えられることのないまま、わたしは生まれ育った家を出た。
それから数年は仕事に追われ、帰る頃にはコンビニエンスストアに大量の値引きされたケーキが並ぶ。わたしにとってのクリスマスは、そんな師走最後の一週間にふさわしい、気忙しく過ぎていく一日に過ぎなかった。彼が帰国するまでは。
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