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グッド・ナイト・タイム

グッド・ナイト・タイム<Ⅶ>

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「なに見てるの?」

 彼がわたしの視線に気付く。そんなに物欲しげな目をしてしまっていただろうか。

「いっぱい出たんだなぁ……と思って」

 咄嗟に出てきた痴女のような返答に焦るが、わたしは『痴女のような』ではなく『痴女』そのものかもしれない。その証拠に、また身体が疼き始めている。あれだけ愛されても、まだ足りないなんて。

「ああ、これ……。きみが上手に絞ってくれたんでしょ?♡ すごく良かったよ……」

 手元のそれを左右に振って見せてくる彼の声音にも醒めない淫欲が漂っていて、ようやく下がるかと期待した熱がまたぶり返していく。

「わたしも……気持ちよかった……♡」

 気だるい身体を起こそうとするが、うまくいかない。膝を立てたほうの片足が虚しくシーツの上を滑るだけ。一部始終を見ていた彼は、ティッシュを重ねて言う。
 
「大丈夫? 俺、拭こうか?」

 非常にありがたい申し出だけれど、それには数点、問題がある。受けたい気持ちは山々だが、いまの状態で彼に触れられてしまったら、まず間違いなく……。

「ありがとう。でも、そしたらまた感じちゃうから……自分でするね?」

「それって、いけないこと?」

 拒絶と受け取られることのないように、恥じらいを見せつつやんわりと躱せば、彼はあっけらかんと言い放った。予想外の発言に思わず聞き返す。

「えっ?」

「きみはもう満足しちゃった? 俺はまだ、きみのこと抱き足りないんだけど……♡」

 彼は天井を仰いだままのわたしの横に片方の肘をついて寝そべった。至近距離から注がれる視線に確信する。……視姦、されている。触られてもいないのに乳首が尖った。

「…………あなたも?♡」

 と、転び出た声もやけに湿っていて。再び愛欲の淵に引き摺り下ろされる感覚に、刃物を突き付けられたような寒気が一瞬走った。

「ってことは……もう一回付き合ってくれる?」

 弾む声は、いやらしさなど微塵も感じさせないのに……わたしの身体をさする手は官能を塗布していく。

「もちろん♡ 『セーブしないで』って言ったのはわたしだし、『最後まで付き合う』って約束もしたから……何回でも抱いてほしいな…………♡♡」

 抗いがたいその誘惑を、わたしは喜んで受け入れることにした。わたしだって、あなたに抱かれることを望んでいる。

「覚えててくれたんだね」

 と目を細める彼。身体を傾けてきて、そのままもう一度……事に及ぶ前に、彼に確認しておきたいことがあったのを思い出す。よかった、覚えていたのが彼との約束だけじゃなくて。

「忘れるはずないよ。……でもね? その前にひとつ、あなたに訊きたいことがあって」

 鼻先が触れ合う寸前に待ったをかける。キスを阻まれた彼は少しご機嫌斜めだ。

「うん? なにかな」

 一見にこやかだが、どことなく急かすような響き。緊張しながら、言葉を絞り出した。
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