モヒート・モスキート・モヒート

鶯音を入る

第三十九話

「ただ、今まで言えなかったっていっても、ここぞとばかりに私ばっかり伝えるのも一方的過ぎるんで……紅さんの方も、私に何かしてほしい事とかあったら、この機会に教えてほしいです。そっちも出来る範囲で叶えます！　……えっと、早速なんかないですか？」

　遅効性の照れに負け、早口で捲し立てた。せっかく言えた渾身の一撃だいすきを無に帰す挙動に頭を抱えたくなった。
　
「流石に急じゃない？」

　しかし、『恋は盲目』とはよく言ったもので、彼女は私の何もかもが可愛く思えるようだ。その証拠に口角が最高点に到達している。

「すみません。急に訊かれても思い付かないですよね……。あ、さっきみたいな質問形式に戻します？」

「ん。それ良いかも」

　時代がかったジェスチャーをしがちな紅さんリスペクトで人差し指を立てて提案したら、彼女はその指を握った。

　『○○（※任意の遊びの名前）する人、この指止まれ』みたいだ。あの頃に戻るには純粋さを消費し過ぎたがたりないが、彼女と過ごし続けたら涸れたと思っていたそれが復活する事もあるかもしれない。

　――――尤も、そんなメリットがなくても私は彼女と共に生きたいと思っているが。

「翠？　質問、思い付かない？」
　　
　思索に沈んでいた所、彼女が握った指を振った。

「あ、すみません。考え事してただけです！」

　女王様の機嫌を損ねたくない。顔を上げて謝罪した。

「そ？」　

「じゃあ、そうですね…………。最初ですし、簡単な質問からにしときましょうか。『紅さんは私にピアス開けてほしいですか？』。……あ、『紅さんは私がピアス開けたほうが嬉しいですか？』のが答えやすいですかね？」

「…………どこが簡単なの。翠の嘘つき」

　恨みがましい目だ。迫力はあるが、少しも怖くはない。

　――――どんな表情を浮かべたってこいはもうもくとはやはり、貴女は私の可愛い人だからよくいったものだとおもう。