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鶯音を入る

第二夜

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「え? でも、。『とっくにバレてる』って……」

 彼女はいまいち事態を吞み込めずにいるようだ。
 
「カマかけちゃいました。ごめんなさい」

 良心の呵責に苛まれ、素直に謝罪した。

「でも、紅さんも変な所で詰めが甘いですね。唇に付いてますよ、血。内出血で血が付くなんて変じゃないですか。間違って噛んじゃいました?」

 ……だけでは飽き足らず、会話の主導権を握り続けるために無駄に言葉を重ねる姿は、ひとく滑稽な事だろう。

「その程度で怒ったりしませんよ、私」

 『それもカマかけで、怒っていないフリも演技だった』と言ったら、彼女はどんな反応を見せるだろう。

 彼女の行動そのものに対して怒っていないのは本当だが、事情を明かしてくれない事に対する苛立ちはそれを覆い尽くしてしまうほどに強かった。

「翠……」

 ――――だって、今。彼女は、指で拭うのではなく、

 それも、だ。
 
 私は『唇』と大まかに伝えただけで、血の付着した場所をピンポイントで特定できるヒントなど出していないのに、目視するまでもなく、最初からそこであるとわかっているように一度でペロリと舐め取って――――。
 
 恍惚の微笑をほんの一瞬だけ浮かべたのだって、この目でバッチリ捉えていた。

 彼女の一連の行動は、前々から抱いていたを再浮上させるには十分すぎるほどだった。

「でも、紅さんは…………私に何か隠してる事があるんじゃないですか?」

 『人の数だけ事情があるし、その中には当然、他人に打ち明けられないものもあるだろう。だから、どんなに親しい関係性でも全てを共有する必要などない』というのが私の考えだ。

「!」

 彼女が目を見張る。完全に黒だ。

「やっぱり……。あるんですね。隠し事」

「ごめん。ある。…………翠に言えてない事」

 普段の彼女であれば、隠し事があるという事実に対する肯定などすっ飛ばして、隠し事の内容を答えていただろう。

 それだけ話したくない隠し事とは、一体何なのか。
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