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夕顔別当

第十五夜

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「だから、けど、貰ってほしい」

 申し訳なさそうに言う彼女の瞳の方が、心の方が、ありとあらゆる邪念や雑念に支配された私なんかよりずっと、透明で清々しいモヒートみたいだ

「そういう事なら、有難く頂戴します」 

「良かった。じゃ、手配しとく」

 だが、頭の中を駆け巡る妄念には、当然の如くアルコールは含まれていない。

「……紅さんも、私が把握してた以上に私の事好きでいてくれてるみたいですね」

 確かに舞い上がった筈の思考は、あっという間に現実に着地してしまう。

 箒を使っても上手い事飛べない、出来損ないの魔女みたいだ。

「そ。だから、自信持って。翠は『マダム・ルージュの選んだオンナ』なんだから」

 しかし、彼女は立体感のある小顔を寄せて断言してくれた。

「そうですね。そう思っときます」

 ――――『どんな形であれ、関係が続く間は私は彼女にとってのテキーラに等しい存在なのだ』。

 そんな、今は無きキャラメルキャンディのCMの印象的な台詞のような馬鹿げた考えを抱いている事を悟られないように、真面目腐って頷いた。

「……でも、もったいないなあ」

 顔のすぐ側の――恐らく、どれだけ高画質になっても耐え得る――美貌を見て、本音が転び出た。

「何が?」

「こんなに美人なのに、どうして顔出さないんですか? 『変な男性ファンの被害を抑えるため』とか?」

「…………翠、ホントに好きだね。アタシの顔」

 少し呆れているように聞こえるのは気のせいだろうか。

「大好きです! 理想すぎ! でも、自分がなりたいとかじゃなくて、眺めてたいです。永遠に!」

 前のめりになって言った後、我に返ると、今にも唇が接触してしまいそうな所に来ていた。
 
「……じゃなくて! はぐらかさないでください。言いたくない理由なら、そう言ってくれれば聞きませんから」

「…………アタシ、デブだから。こんな姿見せたら、皆の夢、壊しちゃうでしょ」

 少しずつ元の位置まで後退する間に聞こえてきたのは、いつになく弱気な声。

 やけにあっさり明かされたのは、彼女が人気が欲しいと言う割に顔出しを拒む――知った後だと拍子抜けしてしまう程シンプルな――理由だった。
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