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夕顔別当
第四夜
しおりを挟む「…………そういえば」
「?」
彼女は私の手を肩に乗せたまま、黙っている。
「やっぱり……。あれ、嘘だったんじゃないですか!!」
「あれ?」
「しらばっくれないでください! ……って、他の人にだったら言ってましたけど。そうでした。紅さんは本当に覚えてないだけなんでしょうね……」
掴みかかる形になってしまっていた手を膝に戻し、深呼吸を繰り返す。
「アタシが翠に、嘘? ……どんな?」
彼女は眉毛を大きく動かした。
不思議そうな顔は怪訝そうな顔へと変わっていた。
「『夢みたい』って言った時ですよ。『芸能人でもないのに大袈裟』みたいな事言ってたじゃないですか。覚えてませんか?」
「……あ。ごめん。覚えてる、それ」
やはり、あの時点では『一夜限りの相手』としか見られていなかったのだろう。
そんな人間に素性を明かしたら、面倒事を招きかねない。当然の自衛手段だ。賢明な判断だ。
そう考えたら、嘘は嘘でも、仕方なく吐いたほとんど隠し事のような嘘と言える。
私も一夜限りでいたくせに傷付くなんておかしいとは思ったが、それならそうと後からでも教えてくれれば良かったではないか。
「言い間違えたみたい。『有名人じゃない』って、言ったつもりだった」
彼女は申し訳なさそうに言い、あげたばかりのリップブラシをコトリと置いた。
「? 紅さんは歌手でしょう? 有名人ですよ?」
何を言っているのかわからず間抜けな声で尋ねると、彼女は追加の説明のために赤く縁取られた口を開いた。
「けど、さっきから言ってる。マイナーって。アタシは芸能人かもしれない。けど、有名人じゃない」
その返答で一つの可能性が浮上した。
もしかしたら、この人は――――。
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