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夕顔別当
第三夜
しおりを挟む「でも、翠。よく知ってたね、そんなマイナー歌手」
彼女の声に、微量ながら自嘲の色が混じる。
「マイナーなんですか? ていうか、自分の事なのに他人事みたいな」
それは謙遜だったのかもしれないし、自嘲のみならず焦燥なども入り込んだ正直な気持ちだったのかもしれないが、見えていないフリで笑い飛ばした。
「ドマイナーでしょ? 顔、出してないし。ていうか、人気あったら、出たくなくても無理矢理出されてると思う。地上波。お面とか、VRとかで」
肩を竦めた彼女の凛々しい眉は大きな目からみるみる遠ざかっていって、最大限距離の開いた所で首が左右に振られる。
海外ドラマのヒロインのような目紛しい表情変化も大きめのジェスチャーも、とてもチャーミングだ。
「ああ~……。なんか最近、そういう方面の技術ばっか発達してますもんね……。そのくせ、業界の体質は変わってないっていう。良くなってる所がゼロって訳じゃないにしても、むしろ悪化してる部分もあったりして」
外見を売り込めば瞬く間にスターダムを駆け上がる事請け合いの彼女が、どうしてこうも頑なに顔を隠しているのだろう。
思えば、私が『マダム・ルージュ』=紅さん説を最後まで否定し続けたのも、結局はその一点のみで語れる事だったのかもしれない。
かもしれない……が、きっとそこには、凡庸な私の想像など決して及ばない事情があって――――。
「翠、詳しいね」
「一般人の耳にも嫌でも入ってきますよ、そのテの話は。私が欲しいのはそういう情報じゃないんですけどね……。耳というか目かな……。まあどっちもクソな事には変わらないか。大々的に報道すべき事は他にある筈なのにしてないっていうのが、何よりの証拠です」
遠い遠い人だ。
本来であれば、届くはずのなかった天体のような人だ。
「…………」
多分、彼女が他のどんな仕事に従事していたとしても同じだった。
「翠?」
今、会話している大好きな人も、ひょっとしてARなんじゃないかと不安になって、恐る恐るその肩に触れると、彼女が不思議そうに目を瞬いた。
その反応が、感触が、彼女が私の知る紅さん以外の何者でもないという事を私に教えている。
『マダム・ルージュ』としての人気や知名度がどうあれ、彼女が私にとっての一番星である事に変わりはない。
本来であれば、スターとはそのどちらもが高水準でまとまっている芸能人を指す言葉だと認識しているが――――……という所まで考えて、出会った時の記憶が蘇ってきた。
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