77 / 171
金糸梅
第九夜
しおりを挟む「……まあ、私の言い方が正しかったかどうかはさておき……。これまで全然そんな感じ見せてなかったのに、急に言い出すのはずるかったですよね。すみませんでした。紅さんが照れてる顔、絶対可愛いだろうなって思ったら、歯止めがかからなくなっちゃって。流石にやりすぎだったかも」
小賢しい言い訳とセットであるといえど、私にしては素直に謝れた方だと思っていた。
「翠、思い切り良いよね。カッコイイと思う」
が、すぐにそんなものとは比にならない真っ直ぐな褒め言葉のカウンターを食らうとは。
「カッコイイ……ですか? 私」
「けど、やっぱアタシには可愛く見えるし、素直に可愛がられといてほしい」
前々からそうなんだろうなあと思ってはいたが、紅さんは攻められるより攻める方がお好みだそうで。
SはサービスのSと言い出したのが誰かは知らないが、もし彼女の能力をレーダーチャート化するとしたら、一箇所が大きく突出したものになりそうだなんて想像して、小さく笑った。
「私も紅さんに可愛がってもらえるのは好きです。昔から『可愛げがない』って言われ続けてきたし、自分でもそう思うしで、変わった感性だなあとは思ってますけど、一回言われる毎に本当に少しずつ可愛くなってる気がするくらい、幸せな気持ちでいっぱいになるんです。多分、美容成分入れすぎてどの成分の効果が出てるのかいまいちわからない化粧水より効果ありますよ」
「……翠、お花みたい。でも、アタシも前より今の翠のが可愛いと思う。これからも『可愛い』って言い続けて、翠の事、もっと可愛くしたげる」
彼女は長い爪を持つ指でそっと私の口元に触れた。
気付かない間に唇に挟まっていた髪を取ってくれたらしい。
「ありがとうございます。でも、それならこっちの考えだって理解出来る筈ですよね」
語彙にも想像力にも乏しい私には、陳腐で使い古しの表現が限界だ。
「翠の考え?」
しかし、隣で私の顔を見つめてくる彼女の方こそ花の精のように美しいと思わずにはいられない。
太陽と大地の恵みを存分に受けて育ったとおぼしき健康的な美の持ち主である彼女には、簡単には折れないしなやかさを感じているが、恐らくこの人は、少しの風にも靡いてしまうような永遠の少女性を併せ持っている。
「……私だって紅さんの事、可愛い人だと思ってるんです! さっきは加減が下手くそで驚かせちゃいましたけど、あれだって偉大な教えに従っただけだったんですよ」
女王様相手に下剋上を企てる果敢と無謀を履き違えた愚か者は、お目こぼしを狙って言い訳を捻り出した。
素直に謝っておけば良いものを。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI

【ママ友百合】ラテアートにハートをのせて
千鶴田ルト
恋愛
専業主婦の優菜は、娘の幼稚園の親子イベントで娘の友達と一緒にいた千春と出会う。
ちょっと変わったママ友不倫百合ほのぼのガールズラブ物語です。
ハッピーエンドになると思うのでご安心ください。

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる