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序章

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「今度はどんな男の子供なんですか?」

 こんな会話をするのは、もう何度目になるだろう。

 すっかり流れ作業と化してしまったとはいえ、恋人の家を訪れた第一声がこんなふてぶてしい台詞だなんて。私が言われる側なら、とっくに縁を切っているところだ。

 女らしさと可愛げを等号で結ぼうなんて気にはならないが、性別以前の問題だ。親しき中にもなんとやらと言うではないか。

 人間としての常識に欠けているマナーがなっていない

 コンビニで見繕ってきた手土産に免じて見逃してくれれば良いのだが。

 物で機嫌を取ろうなどといった卑しい根性に、ますます自分への嫌悪を募らせていく。本当に、彼女は私のどこを好いてくれているというのだろう。

「…………まあ、聞いたって何にもなりませんけどね」

 つまみや酒類、それから本日発売されたばかりのスイーツが入った袋をわざとらしくがさがささせ、うっかり顔を覗かせた独り言を隠した。

「……どこにでもいる、冴えない男?」

 袋の中身はすべて彼女の大好物だったはずだが、そんな事にもちっとも気付かず淡々とそれを受け取る様子を見るに、彼女はやはりどこかが壊れてしまっているに違いない。

 ふたりで過ごす事が日常になってきたという事なのか。

 あるいは、彼女があまりに私の事を愛し過ぎているという事なのか。

 ……いや、そこまで行くと呆れた楽観でしかなくなってしまう。

 希望的観測は程々にしておくのが、他人に期待を裏切られないためのメソッドだ。――タイパコスパ至上主義に傾倒した、現代人らしさに溢れた小賢しい浅知恵だが。

 

 私たちは利害関係の一致により、一時的に共に過ごしている。

 説明は簡素に、それだけで良い。
 
 より良い相手が見つかり次第解消されるであろう刹那的なものに過ぎないが、一応、双方に愛はある。しかし、それ以上でもそれ以下でもない関係。

 便宜上は恋人――――だが、そんな浮かれた名前はきっと、私たちには相応しくない。

 大人には珍しくもなんともない事なのに、どうしてこの胸は激しく痛むのか。
 
 私は彼女がを提供し、彼女は私に居場所を提供する。
 
 肉体関係の有無もないわけではないはずだが、男女間のそれと比較してしまえば随分と気楽なものだ。

 だって、私たちが何度抱き合ったところで、新たな命を生み出す事など出来ないのだから。

 靴を脱ぐ前に、彼女の腹部を一瞥した。『生殖とは、愛の延長線上にあるものではないのだ』と残酷に物語る、近頃少し目立つようになってきた腹を。
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