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サイワイ
サイワイ【7】
しおりを挟む「正しい育て方? って一体」
「それが、人によって違うらしい。だから、有効なアドバイスは誰にも出来ないし、マニュアルなんてものもない。育てながら、それぞれに合う方法を探らないといけない。とはいっても、基本的には通常のかぼちゃと同じようにしたらいいんじゃないかなあ。ああ、言うまでもないと思うけど、お手入れ中に実体化させたい人のことを思い浮かべて強く念じるのは必須だね。詳しければ詳しいほど成功率は高くなる。わかってるのはそのくらいさ」
もし彼の言うことが真実であるのなら、手の中の種は生産者の思考が読み取り可能であるか、あるいは生産者の感情に共鳴して育つということになる。
『お化けかぼちゃ』といったところか。
「なんですか、それ……。欠陥品の在庫処分じゃないですか。返品しますよ」
「まあそう言わずに。とりあえず、どんなに下手っぴな育て方しても、実は生るみたいだから。いやあ、育てやすいっていいよねえ」
余り物を半ば強引に押し付けてきた彼は、鼻歌まじりにセールスポイントを強調している。
「それはすごいですね」
「いつにも増して棒読み~。確かにオレも眉唾だとは思うけどさ。もし本当なら、素敵じゃん?」
「ハーさんはそういうの好きですよね」
「大好きだよ。……あっ! ごめん、オレそろそろ行かないと。妻が待ってるからね。色々言ったけど、その種はキミにあげたものだから、どうするのも自由だよ」
もちろん捨てたって構わない、と付け加えたあと姿見の前に立った彼は、スーツの皺を確認してから鈍い光沢を放つ革靴をトンと鳴らした。
「育ててみますよ。せっかく頂いたんですから」
「うん、それじゃあね」
身支度を終え、ひらひらと手を振る彼を見送る。
「あ。そうそう、ひとつ言い忘れてた。さっきは、どんなに下手な育て方をしても一応実は生るって言ったよね。確かにそれで合ってるんだけど、ごく稀に大失敗することがあるんだよ」
「実は生るのに、ですか?」
彼がドアの前で立ち止まると、床板がぎしりと嫌な音を立てて軋む。
「うん。その生った実に邪悪な魂が宿って、ひとりでに実体化しちゃうらしいよ。ランタンに加工する過程を踏まずにね」
ドアノブに手を掛けた彼が真剣な面持ちで言うことには。
「でも、恐ろしいのはそれだけじゃない。なんでも、そこに宿った邪悪な魂は、育成中に得た情報をもとに、実体化するはずだった人の似姿をとって現界するんだけど……中身はまるっきり別人だとか」
END
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