うりふたつ

片喰 一歌

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カイテイ

カイテイ【2】

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「ベッドも前よりふかふかなのに買い替えたんだよ。君さえよければ、一緒に寝たいなあ。心配なら、この中身で適当に拘束してくれていいよ」

 差し出されたのは、後部座席に無造作に置かれていた袋だった。受け取って中を覗き込めば、見慣れない道具が数点。いや、一式というべきか。

「……この拘束具は一体」

 手錠に足枷、ロープ、それから男性用の貞操帯と思しきもの。使用経験がなくとも、用途くらいは知っている。

「君に会う前にさっと見繕ってきたんだよ」

 実物を見ると、いやに生々しい想像が頭を駆け巡る。

 私に使う想定でないことは道具のチョイスや彼の言動から見て取れるが、これでも枕を交わした仲だ。意識するなというほうが難しい。

「どれもハードですね……? あの、繰り返しになりますけど、全然その、せっ……! 性的な接触も吝かではない、ので!」

 あなたを拘束するつもりはないという意思表示にとどまらず、もっと触れてほしいという欲望が鎌首をもたげる。

 文語寄りの堅苦しい表現を引っ張り出してみたはいいものの、奥ゆかしさの演出など彼の前では猿芝居か。強く握ったルームウェアの生地は、スーツと違って柔らかい。

「うん、ありがとう。でもね、俺たちはもう、生きる世界が違う者同士なんだよ。そんなことしたら、何が起きるかわからないよね? だから、それはダメ。もし君になにかあったら、俺は自分を許せないから。本当はもっと沢山触れ合いたいけど……ずるい言い方でごめんね。それに、そうじゃなくても何もするつもりはないよ。ただ、もう一度、君と一緒に眠りたくて。あ、抱き締めるくらいはさせてほしいけどね?」

「そんなの断るわけないじゃないですか。でも、ちょっと残念ですね。せっかく面白そうな道具があるのに、試せないなんて」

「ダメだよ? しないよ? どんなに可愛くお願いされても、それだけは聞けないから! ……あ。でも、これなら使えそうだね」

 摘み上げられた銀色の輪っかの向こうの彼と目が合う。

「オーソドックスな手錠に見えますが」

「これを片手ずつつけて眠るのはどうだろう?」

 提案するなり、私の返事を待たずに彼の右手と私の左手が繋がれる。かちゃり、と嵌められたそちら側の不自由が、たまらなく愛おしいものに思えた。

「片方がベッドから落ちたら道連れですね」

 もしそんなことがあるとすれば、最初に落ちるのは間違いなく私のほうだろう。実際に転がり落ちて起きたことは一度や二度ではない。

「そのときは潔くふたりで床にダイブしよう」

 躊躇わずに言い切った彼と顔を見合わせて笑うと、ふたりでならどんな場所でも生きていける気がした。
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