189 / 241
第4章 夕べの調べ
第79話 誰かが尾鰭をつけたがった話<LIX>
しおりを挟む「…………それを言うのは、まだ早いんじゃないか? 気をしっかり持て。そういうことは最後の最後に聞くから……」
腹部に力を込めても、情けなくなるほど弱い声しか出てこなかった。僕のほうが死にかけているみたいだ。
「『もっと土産話を聞かせろ』って? きみは本当にあたしの話を聞くのが好きだねえ……。でも、あたしもきみの話聞くの好きだし、お互い様……かあ…………」
「もちろん聞きたいが、まだ話したいことがありそうに見えた。違っていたら、僕が適当に…………」
「ありがとね。実はちょっとだけ愚痴聞いてほしかったんだ~」
開きかけた唇を覆われ、おとなしく会話の主導権を譲り渡せば、大きな瞳に星が舞った。
「せっかく会いに行ったのに、なにか気に障ることを言われたのか?」
「言われた言われた! 『イーヴァのお顔は美しいですが、わたくし好みではありません。しかし、おまえの魂は誰より美しい。より輝きを増して……。わたくしがわたくしでなくなる前に、会えてよかった……』だかなんだか。こんな美人捕まえといて、失礼しちゃうよね~?」
「ああ、わかっていないな。イーヴァはこの世でいちばん美しいというのに……。しかし、腐っても君の友人だ。君と親交を深めてくれたことに関しては、僕からも礼を言わせてほしいと思っている。心から」
――――そう。
あの男の奥方への行いに鑑みても。たとえ海に溶ける運命でも。彼女が僕の最愛のひとの友人のひとりでいてくれていたことは事実だった。
「あはははっ! …………ねえ、あたしさ……『あの世でもいちばん』になれると思う?」
「縁起でもないことを言わないでくれ。まだ当分はこの世にいてもらうよ。今度はぎりぎりまで引き留めるし、一歩も譲らないからな」
きっぱり断言し、多少は顔色のよくなってきた頬を摘んだ。
「ふふ。ありがと……」
全快には程遠いのだろうが、冗談を言う余裕があるなら、いましばらくは『この世でいちばん美しい人魚』でいてくれると信じていいはずだ。
「…………しかし、魂とは大きく出たな。そんなもの、目には見えないだろうに」
「見えないけど、視えるよ。視えるひともいる」
自身の両目を指した彼女が短く語ったのは、海の世界に伝わる伝承だろうか。
「え……。それは本当か?」
「あたしもそんなに詳しくないんだけどさ、そもそも海の水自体が魂の集合体……だかって話じゃなかったかな? それが輝きになって視えるひともいるらしいんだけど、この話って陸には伝わってないのかな?」
「どうだろう? 少なくとも僕ははじめて聞いたが……。その理論をもし採用するのなら、『特別な目を持った者には、発光器の有無にかかわらず、生きとし生ける者すべてがぴかぴかに光り輝いて見えている』ことにならないか?」
「確かに! そのへんどうなんだろうね?」
早口で尋ねたが、彼女も答えを持ち合わせていないようだった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる