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第4章 夕べの調べ
第67話 誰かが尾鰭をつけたがった話<XLVII>
しおりを挟む「肉体と精神の両面に干渉することのできる技術か。万人にとっての脅威だろうし、恐ろしく非人道的な代物だな……。開発者たちは技術革新に取り憑かれて、人情をどこかに置き忘れてしまっているみたいだ」
「…………たぶん、きみの言うとおりなんだろうね。戦力云々は後付けで、元は自分たちの生み出した技術のすごさを実感したくて始めたことなのかも……」
重苦しい雰囲気の最中、彼女の声が一条の光のように駆け抜けた。
「後付け?」
「あ……うん。後付けではあるけど、おまけとかついでみたいな感じじゃないよ。ただ、報復とかは二の次になってきてるかもしれないと思って」
「確かにその可能性はあるな。しかし、目的の変化があったところで、その者たちの状況はなにひとつ好転していないだろう。同じことだ」
「果ての海で管理されてる人魚たちは、そのためのストックでしかないってことだもんね。どうにしろモノ扱いで、生まれてから死ぬまで、人格のある一個人として尊重されることはないんだ……。あの子たちがなにかしたわけじゃないのに、生まれてきたこと自体が罪みたいに謗られる…………」
彼女の感情の昂ぶりに共鳴するように、波が高くなる。
「…………だけじゃない。あの子たちの置かれてる状況が『報い』なんだって、大きい人魚たちが支配してた時代を知らない人魚まで、そんなこと言うんだよ? そんな言葉を向けられ続けて、そのままでなんていられるはずがない……」
激しさを増すうねりが岩に打ち付ける音に紛れて、傷を負った獣の咆哮が聞こえてくるかのようだ。
「素直な人魚なら、自分を粗末に扱うようになる。いつもびくびくして、怖いくらい従順で、変に明るく振る舞おうとしたり……。ひねくれものの場合は、絶対に外に出しちゃいけない極悪人魚になることもある。最初から投獄されてるからね。失うものがないんだよ、あの子たちには」
生きていれば、時には遵法意識や倫理観をもってしても制御不能な、突発的で激しい衝動に襲われることもあるだろう。
しかし、自由と愛を得ている僕が彼らに憐憫を抱くことはひどく傲慢に思えて、薄っぺらな相槌も舌に溶けていく。
「自分がやけになってることにも気付けないまま、罪が増えてくの。最初に着せられた罪は、本当は罪なんかじゃないのに…………」
「……ああ。そうだな。人間も人魚も、関わる者次第で……あるいは受け取る感情如何で、邪悪にも善良にも振れる。完全にどちらかに固定されることはなく、置かれている状況でその比率は変動する。ただそれだけのことだ」
「本当にそうなんだよ……。きみみたいに考えてくれる人がもっと増えたらなあ…………」
力ない笑顔での呟かれた言葉を、そっくりそのまま返したい。
親愛と慈悲に満ちた考えに触れただけで救われる同族は、数多く存在するだろう。
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