誰かが尾鰭をつけた話

片喰 一歌

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第4章 夕べの調べ

第63話 誰かが尾鰭をつけたがった話<XLIII>

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「好き嫌いで助けるかどうか決めるなんて間違ってる。本当はそんなことが罷り通ってるのはおかしい。嫌われ者とか関係なく救われるべきだし、そもそも差別されていいひとなんていない」

 すぐに顔を引き締めた彼女は、話の続きに戻った。

「でも、現実に差別はあるし、完全になくなる見込みだって薄い。制度が変わって大々的に禁止されても、絶対に法をかいくぐって存在し続けると思う……」

「ああ、それは間違いないだろう……。この流れでいくと、君が会いに行こうとしているのも、差別を受け続けている人魚なんだな?」

「そうだよ」

「そいつは『助けてやりたい』という気持ちにさせるような、一部の殊勝な者上澄みか?」

「ううん、全然! 身体も態度も大きいし、決め付けがひどくて、おまけに乱暴者! 差別されてなくてもみんなから嫌われてたと思うし、未遂も含めて誘拐事件ばっかり起こしてたみたいだから、おんなじ一部でも完全に澱側だよ~」 

「……容赦ないな」

 反射的にそう返したが、はちゃめちゃな友人について話しているときの彼女は、宝の地図を見つけて冒険に乗り出す子どものようで、好奇心を擽られた。

 個性的な彼女の周囲には、負けず劣らず型破りな者が集まっているのだろう。

「だって、そうでしょ。できれば、近付きたくないもん」

「だが、君の友人なんだろう?」

「まあね。条件で友達作ってるわけじゃないし。友達になったのがな人魚だっただけ! それにさ…………」  

 それまでは口を挟むのも憚られるほど饒舌だった彼女が口を噤む。

「嫌なだけの奴ってわけでもなかったんだ。その子。……その子だけじゃないか。きっと、誰だってそうだよね。見えてないし、知ろうともしないだけ…………いや、ソナーが反応しないだけなのかな?」

「ソナー?」 

「うん。反りは合わないかもしれないし、認めたくないかもだけど、探せばどんな人にだっていいところがあるはずなんだ。ヤドカリが引っ越したあとに残る痕跡みたいに、ほんのちょびっとかもしれないけどね!」 
 
「そうだな。君を好きでよかった。嫌われ者に危険を冒して会いに行く物好きなところも……」
 
 好きな部分を列挙しようとして、言葉が止まった。
 
 ――――肝心な部分について、まだ説明を受けていないではないか。
 
 彼女はどうして命を危険に晒すような真似をする? 
 
 ここまでの話を聞いた限り、そうまでして会う価値のある人魚だとは思えないが、損得勘定を説いたところで、彼女の基準や決意を変えることはできないだろう。

「…………そうだ。『直接的な巻き込まれ方』というのは? 僕はまだ、君がなぜその友人に会いに行こうとしているかについても聞けていない」

「ああ、ごめんね。さっきの話でだいたい想像ついてると思うけど、その子、もうすぐ兵士…………っていうか実質兵器かな。……うん。の」

「戦力として? だが、君の友人は差別を受け、管理されている存在のはずだ。体力増強に繋がるような行動も禁じられているんじゃないかと思ったが、そうではなかったということか?」

 最も身近な例を挙げれば雇用主などが該当するだろうが、彼らは概して人を人として考えていない。認識としては『替えの利く道具』といったところだろう。

 だから、『兵器として駆り出される』なんて言ったって、訓練を受けさせて増産した兵士を動員するという、ただそれだけの話だろうと――――この時点ではまだ、そう思っていた。
 
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