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第4章 夕べの調べ
第60話 誰かが尾鰭をつけたがった話<XL>
しおりを挟む「あれはいつだったかな……。極北の海の……そのなかでも果ての果てみたいな海域に迷い込んだことがあってね」
「『地の果て』と呼ばれる場所になら訪れたことがあるが、海の果ては想像がつかないな。どんな場所なんだ?」
「んー。きみたちからも見えてるとおり氷がごろごろしてるけど、その下はいろんな場所から流れ込んできた水が混じり合っててさ。意外とあったかい水もあるんだよ! すごいでしょ!」
極北の海について語る彼女は、はじめて知った自然界の仕組みにいたく感動した子どもが、一所懸命、自分の親にその説明をしているようだと思った。
「……ということは、出身の違う人魚が共同生活を送っていたりするのか?」
「いいねいいね! 環境的にはそうなっててもおかしくないし、もしそうだったら交ざりたかったな~!」
「君はそこでも大人気だっただろうな。まあ、すべては僕の想像に過ぎなかったようだが……。さあ、教えてくれ。本当の極北の海はどんなところなんだ?」
「じゃあ、話すよ。…………これはね、極北だけが特別なんじゃなくて、全部の『果ての海』に共通してることなんだけど……」
手招きで僕を呼び寄せた彼女が、声を落として言うことには――――。
「差別を受けてる人魚たちがまとめて管理されてるの。彼らの居住区とか居住海域って言ったほうがわかりやすいかな……」
「管理…………!?」
世界中で平然と行われていることを端的に表した単語を復唱するや、体制に対する恐怖心や不信感が弥増していった。
「陸でもあるでしょ? 捕虜とか凶悪犯とかがまとめて収監されること。それ用の施設。……海にもあるの。一般の人魚から隔離できて、広く場所が取れるところっていうと、候補地が果ての海域に絞られてくるんだよね……」
「なるほど。理に適っているが……」
珍しく沈んだ声を聞きながら、刻まれた記憶を辿る。
(……以前、どこかでこれと関係していそうな話を耳にしたことがなかったか……?)
小鳥の囀るような軽やかな声ではなく、重くて嗄れた男の声の――――。
「経緯は不明だが、君はそこから動けない友人に会いに行きたいということでいいか?」
「勘がいいね。そうだよ」
「しかし、どうしていま? 『思い出した』というのは?」
逸る気持ちを抑えられず、質問を重ねてしまう。
「そんなの決まってる。『いまじゃなきゃ意味がない』から。『間に合ううちに』って言い方もできるかな?」
彼女の返答は、胸騒ぎを助長するものだった。
君にはもう、一握ほどの時間しか残されてはいないのか?
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