161 / 193
第4章 夕べの調べ
第51話 誰かが尾鰭をつけたがった話<XXXI>
しおりを挟む「もちろん全部叶えるよ。お咎めなしというのは気が引けるし、罪滅ぼしにもなりはしないが、僕にできることはすべて、一回限りでなく継続して行っていくつもりでいる」
僕に対する子どもたちの好感度が高いのも偏に彼女の教育の成果だとは思うが、無粋な指摘は吞み込んだ。
「つまり?」
子どもたちのためにと要約を促したはずの彼女だが、娘たちを差し置いて最前列で僕を見上げている。
「抱っこもするし、競争にだって付き合おう。君たちの求めているものと僕の想定しているものが一致している確信は持てないが、陸の話もする。引き出し……ではなく、話せることはそこそこ多いほうだろうからな」
『難しいことばかり言っている』という人物像から完全に脱却することは困難だとしても、娘たちの幼いうちは彼女たちにも伝わる言葉で話すように心掛けたい。
訂正を入れたのも、そういった決意を決意のまま終わらせないためだったが、口にする前に気付けるに越したことはない。
訓練を重ねる必要がありそうだと思ったら。自然と口角が上がっていた。
「「「わーい!」」」
黄色い声が上がる。
英雄にでもなった気分だが、義務も果たさないうちから喜ぶわけにはいかない。
「……だが、その前に言わせてもらおう。君自身の願いをまだ聞いていない。こんな男でも、そばにいないよりはいたほうが心が休まることもあったと思う。でも、実際はそばにはいてやれなかった。こんなことで埋め合わせができるとは思っていないが、君にもわがままを言ってもらわないと困る」
日没までには数時間あるし、このあたりの海はうら寂しい雰囲気があるといった感じでもない。
なにもかもが愛を確かめ合った日とは異なっているが、世界にふたりきりであるかのように最愛の女性ひとりをひたと見据え、語りかけた。
「あたしは別に、これ以上望むことなんて…………」
しかし、彼女は酸素を求めて口を開閉させる魚さながらに、唇を開きかけては閉じることを繰り返している。
その仕草に滲み出した逡巡を見逃すほど、僕は鈍くも優しくもなかった。
「離れているあいだ、君は子どもたちの願いを叶えるばかりで、自分自身の願いを見失ってしまっているのかもしれないが……。その場合は一緒に探そう。見つかるまで付き合うし、それがなんであれ、叶えるための協力は惜しまないつもりでいる」
「…………見つかるまで?」
ようやく彼女の声から迷いが消えた。
あともうひと押しできっと、君は心からの望みを打ち明けてくれるだろう。なにを躊躇っているかは知らないが、なんでも言ってみればいい。
この決意も、想いも、それから覚悟も――――最愛のひとの願いで沈むほど軽いものではないはずだ。
僕は三年ものあいだ、休みなく君の尾鰭を追い回した男だぞ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。
猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。
『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』
一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。
【R18】短編集【更新中】調教無理矢理監禁etc...【女性向け】
笹野葉
恋愛
1.負債を抱えたメイドはご主人様と契約を
(借金処女メイド×ご主人様×無理矢理)
2.異世界転移したら、身体の隅々までチェックされちゃいました
(異世界転移×王子×縛り×媚薬×無理矢理)
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる