155 / 193
第4章 夕べの調べ
第45話 誰かが尾鰭をつけたがった話<XXV>
しおりを挟む「君はなんでも肯定してくれるんだな。至らないところばかりの僕さえも……」
「別にあたしに限ったことじゃないと思うけどな~?」
「そうか?」
「うん。好きなひとやものって、全力で肯定したくなっちゃうものじゃない? いいとか悪いとか超えたところで考えちゃってるっていうか、『あたしだけはどんなときでも味方でいたい』って思うんだよね。それが自分と正反対の考えでもさ」
心臓の上に置かれた手は僕のそれより小さかったが、手のひらから無尽の生命力を分け与えられているのではないかと疑ってしまうほどに愛しいぬくもりだった。
「よっぽどどうかしてるなって思ったときは、びしっと言うけどね?」
「……そうか。ありがとう。頼もしいよ」
「…………だけど、夢なんかじゃないよ。あたしはここにいる。声も聞こえるし、ちゃんと触れるでしょ」
肌を合わせているあいだに、違う生きものなのだと幾度思い知らされたことか。
(彼女の言うことはもっともだ。およそ半分は皮膚ですらないが…………)
右脚に巻き付いたヒトならざる下半身に撫でられ、ぬめりと硬度の同居する摩訶不思議な感触が生々しく伝わるたび、星屑を散りばめた疑似的な天井がひそやかに遠ざかっていく感覚に襲われる。
「ああ、そうだな。望めば抱き寄せられる距離にいて、そよ風よりささやかな囁きも聞き落とすことはない。……幸せすぎて恐ろしいくらいだ」
「…………ふふ。すごいなあ。一瞬でそんなこと言えちゃうの。きみの感性と言葉選びなら、どんなお堅い女の人も落とせちゃいそう」
「褒めすぎだ」
「ううん。きみが謙虚すぎるだけ。…………それと……さ。『なんでも肯定してくれる』ってきみは言ってたけど、全然そんなことないんだよ。あたし……」
心臓上の手が強張った。
「…………あ……のさ。さっきは茶化してごめんね。暗くて視界も悪かったし、人間とは身体の構造も違うんだから、簡単に見つからないのも手間取っちゃうのも……ちっともおかしいことじゃなかったのに……」
「ああ、そんなことか。僕は気にしていないから、君も気に病まないでくれ」
髪に指を通して撫でると、彼女は丸い頭をぐりぐり押し付けて、もっと撫でてとねだってきた。
「うん。ありがと。……嬉しかった。あたしのこと、人間扱いするのなんて、きみ以外いないもん……」
「ずっと気になっていたんだが、君は過去にも人間とこういう経験が?」
「あるよ。対価として仕方なく……って感じだったけど、どんな過去もなかったことにはできないよね。ごめん。もっとしっかり話さないといけないのかもだけど、できればあんまり思い出したくなくて……」
よほど恐ろしい思いをしたのだろう。奔放で気丈というにふさわしい彼女が、かたかたと震えている。
「いや、いいんだ。思い出したくもないことを思い出させてしまって、本当にすまない。知らなかったとはいえ、不躾な要求まで……」
「ううん! 嫌だったら断ってたもん。あたしもきみに抱いてほしかったの。誰にでもあんなふうに迫ったりしないよ」
「そ……そうか。なら、いいんだが…………そいつのことは許せないな」
「じゃあ、きみの記憶で全部塗りつぶして……? もう二度と思い出さなくて済むように、幸せな記憶で塗り替えてほしいの……」
頬を両側から挟まれ、流星がごとき口付けが降ってくる。
愛の交歓を終えたあとの倦怠感は、海で泳いだ直後のものと酷似していた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【R18】黒髪メガネのサラリーマンに監禁された話。
猫足02
恋愛
ある日、大学の帰り道に誘拐された美琴は、そのまま犯人のマンションに監禁されてしまう。
『ずっと君を見てたんだ。君だけを愛してる』
一度コンビニで見かけただけの、端正な顔立ちの男。一見犯罪とは無縁そうな彼は、狂っていた。
【R18】短編集【更新中】調教無理矢理監禁etc...【女性向け】
笹野葉
恋愛
1.負債を抱えたメイドはご主人様と契約を
(借金処女メイド×ご主人様×無理矢理)
2.異世界転移したら、身体の隅々までチェックされちゃいました
(異世界転移×王子×縛り×媚薬×無理矢理)
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる