誰かが尾鰭をつけた話

片喰 一歌

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第4章 夕べの調べ

第45話 誰かが尾鰭をつけたがった話<XXV>

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「君はなんでも肯定してくれるんだな。至らないところばかりの僕さえも……」

「別にあたしに限ったことが特別とかじゃないと思うけどな~?」

「そうか?」
 
「うん。好きなひとやものって、全力で肯定したくなっちゃうものじゃない? いいとか悪いとか超えたところで考えちゃってるっていうか、『あたしだけはどんなときでも味方でいたい』って思うんだよね。それが自分と正反対の考えでもさ」 

 心臓の上に置かれた手は僕のそれより小さかったが、手のひらから無尽の生命力を分け与えられているのではないかと疑ってしまうほどに愛しいぬくもりだった。
 
「よっぽどどうかしてるなって思ったときは、びしっと言うけどね?」 

「……そうか。ありがとう。頼もしいよ」 
 
「…………だけど、夢なんかじゃないよ。あたしはここにいる。声も聞こえるし、ちゃんと触れるでしょ」
  
 肌を合わせているあいだに、違う生きものなのだと幾度思い知らされたことか。
 
(彼女の言うことはもっともだ。およそ半分は皮膚ですらないが…………)

 右脚に巻き付いたヒトならざる下半身に撫でられ、ぬめりと硬度の同居する摩訶不思議な感触が生々しく伝わるたび、星屑を散りばめた疑似的な天井がひそやかに遠ざかっていく感覚に襲われる。
 
「ああ、そうだな。望めば抱き寄せられる距離にいて、そよ風よりささやかな囁きも聞き落とすことはない。……幸せすぎて恐ろしいくらいだ」

「…………ふふ。すごいなあ。一瞬でそんなこと言えちゃうの。きみの感性と言葉選びなら、どんなお堅い女の人も落とせちゃいそう」
 
「褒めすぎだ」 

「ううん。きみが謙虚すぎる控えめなだけ。…………それと……さ。『なんでも肯定してくれる』ってきみは言ってたけど、全然そんなことないんだよ。あたし……」

 心臓上の手が強張った。
 
「…………あ……のさ。さっきは茶化してごめんね。暗くて視界も悪かったし、人間とは身体の構造つくりも違うんだから、簡単に見つからないのも手間取っちゃうのも……ちっともおかしいことじゃなかったのに……」

「ああ、そんなことか。僕は気にしていないから、君も気に病まないでくれ」 

 髪に指を通して撫でると、彼女は丸い頭をぐりぐり押し付けて、もっと撫でてとねだってきた。
 
「うん。ありがと。……嬉しかった。あたしのこと、人間扱いするのなんて、きみ以外いないくらいだもん……」

「ずっと気になっていたんだが、君は過去にも人間とこういう経験が?」

「あるよ。対価として仕方なく……って感じだったけど、どんな過去もなかったことにはできないよね。ごめん。もっとしっかり話さないといけないのかもだけど、できればあんまり思い出したくなくて……」

 よほど恐ろしい思いをしたのだろう。奔放で気丈というにふさわしい彼女が、かたかたと震えている。

「いや、いいんだ。思い出したくもないことを思い出させてしまって、本当にすまない。知らなかったとはいえ、不躾な要求まで……」
 
「ううん! 嫌だったら断ってたもん。あたしもきみに抱いてほしかったの。誰にでもあんなふうに迫ったりしないよ」 

「そ……そうか。なら、いいんだが…………そいつのことは許せないな」

「じゃあ、きみの記憶で全部塗りつぶして……? もう二度と思い出さなくて済むように、幸せな記憶で塗り替えてほしいの……」

 頬を両側から挟まれ、流星がごとき口付けが降ってくる。

 愛の交歓を終えたあとの倦怠感は、海で泳いだ直後のものと酷似していた。
 
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