誰かが尾鰭をつけた話

片喰 一歌

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第4章 夕べの調べ

第43話 誰かが尾鰭をつけたがった話<XXIII>

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(ここまでは勢いでなんとかなったが、ここからはどうしたらいいんだ? 僕はいままで、こういった場面でどういう行動を取っていた? ……いや、思い出せたところで、どの段階まで参考にできるかわかったものではないしな。せっかくいい雰囲気になってきたところなのに、頭が痛い……)

 情けないことこのうえないが、瞼の下で行われている眼球運動にさえ愛しさを募らせ、幾度となく口付けを落とす一方で、内心では慌てふためいていた。

(問題はそれだけではない。第一、僕たちは一体となれるのか? さっきから探しているが、肝心の場所がわからないようではなにも……。裸で抱き合っているだけで十分幸せだとは思うが、できることなら最後まで…………)

 思案に沈んでいると、彼女が目を開けた。 

「すまない! 鬱陶しかっただろうか」
 
「ううん。ちょっと擽ったいけど、大切にしてくれてるんだな~ってわかったし、全然嫌じゃないよ。それより、きみ……人魚を抱くのは、はじめて?」

 からかいまじりの声が聞こえたあと、ぽってりした唇が弧を描く。

「…………わかっていて訊いているだろう。が悪いな」

 彼女曰く『全開』らしいが、ただでさえ鱗で覆われた表面に溶け込む裂け目を探すのは、困難をきわめる作業だった。

「あははっ! ごめんね? 必死に探してるのがかわいくて、つい」

「悪かったな。人間は……もう少しわかりやすいんだ……」

 人間だって、性器は急所に数えられる。

 纏うもののない彼らはなおのこと、種の存続に直接関わってくる部分を堂々と晒すわけにもいかないのだろうが、それにしたってわかりにくい。

「あれ? でも、人間の女の子だって、裂け目みたいな感じじゃなかった? そんなに変わらなくない?」

「裂け目ではあるが、君のそこと比べたら、もっとしっかり穴が開いている……と、僕は思う…………」

 そうは言ったものの、最後に女と夜を明かしたのはいつのことだったか。

「へえ、そうなんだあ♡♡」

 数多の鱗に守られた局部よろしく、逆鱗を巧妙に隠している彼女のことだ。

 不必要に嫉妬を煽ってしまったのではと危惧したが、消えていく言葉尻に被さった声は、やけに生き生きしていた。
 
「…………生物学的興味か?」

「それもまったくないわけじゃないけど、いまはもっと原始的な欲求が圧勝してるかな。知性なんてなくても簡単にことがしたくてしょうがないって感じ……♡ あたしたちも、きみたちも、のおかげで繁栄し続けられてるんだよね……」

 彼女は身体を揺らし、擦り付けてくる。僕に求愛しているつもりだろうか。

「知性の高い君が言うと、ひと味違うな」 

「でしょ? 手順自体は同じわけだし、思ってるほど違いもないんだと思う。たぶんだけどね」

「最終的な目的も同じだしな」

 僕はそれを希求してはいないし、望んだところで叶いはしないだろうが。
 
「うん、そうだね?♡ ……ほんとは待っててあげたいけど、あたしが待てないから、ここは任せてもらえない? すっごく気持ちいいこと、してあげる……♡」

 彼女は右往左往していた僕の手にしっとりした手を重ね、まで案内してくれた。
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