誰かが尾鰭をつけた話

片喰 一歌

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第4章 夕べの調べ

第40話 誰かが尾鰭をつけたがった話<XX>

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(もっと他に言い方はあっただろうに……!)

「あたしでいいの? 後悔しない?」

 気の利いた文句ひとつ出てこない自分を呪ったが、彼女は先刻とは打って変わって穏和な笑顔を覗かせた。
 
「後悔なんかするものか。君がいいんだ……。他の女じゃなく、君が欲しい…………」

 ずいと迫って、深く口付けた――――まではよかったが、現在地と時間帯に鑑みれば、ここで事に及ぶのは賢い選択とは言い難い。
 
「嬉しい……! あたしも、きみともっとくっつきたいな……」

 彼女は上半身を押し付けてきたが、下品な感じはしなかった。
 
 それどころか愛らしいと感じたのは、惚れた弱味というものなのだろうか。

(さっと済ませればいいか? ……いや、無理だ。少しでも長く触れていたいし、彼女を雑に扱いたくない)
 
「続き、しないの?」 

 物欲しそうに開いた唇が、次の展開をねだる。

「…………あまり人は来ないと言っていたが、ここでは目立ちすぎるし、このまま続けていいものかと思ったんだ。誰か来たら誤魔化しようがないし、果てしなく気まずいことになってしまうじゃないか」

「心配性だね? 確かに誰もこない保証はないけど」

「……いろいろ言ったが、要は『いまよりさらに美しくなる君を誰にも見せたくない』ということだ。僕が恥ずかしいだけなら構わなかったんだが」

「そんなこと言って、気遣ってくれてるんでしょ? ありがとね。あたしは別に誰に見られても気にしないけど、きみが嫌ならせめて暗くなるまで待…………」

「どうした?」

「あたし、ふたりきりで過ごすのにいい感じの場所知ってるんだった! まあ、あたしが行きたいだけなんだけど……」

 染まった頬は、夕焼けの色を映しただけではなさそうだ。

「僕も……君とふたりきりになりたい」

 この機を逃すまいと力強く頷いた。
 
「了解! じゃあ、から、ついてきてね?」

「どういうことだ?」

「うんうん。気になるよね。でも、とりあえず行こっか。!」

 立ちはだかる岩の壁を指した彼女の声は、わかりやすく弾んでいた。

「上からでも下からでもというのは、歩きでも泳ぎでもいいという意味だったんだな」 

「そういうこと!」

「この向こうになにがあるんだ? 廃船かなにかか?」 

「んー……。教えてもいいけど、説明より見てもらったほうが早いし、感動も大きいんじゃないかな?」

「そうか。では、この目で確かめることにしよう」

 人間は人間らしく陸を行こうかとも考えたが、待たせてしまいそうだったし、彼女と離れるのも嫌で、服も脱がずに海に飛び込んだ。

「案内を頼んでも?」

「もちろん! ……きみもこっちを選んでくれたし、今回は特別にから行こっかな?」

 満足そうに笑みを深めた彼女に、膝のあたりを鰭で撫でられた気がした。

「下の下? 上でも下でもなく?」

「そう。いちばんわくわくする行き方! あたしのお気に入り! めいっぱい息吸って、潜ってみて? そしたら、手を引いてあげるから!」

「わかった」

 指示に従い、三回程度深呼吸をしてから、なるべく深く潜水した。
 
 進行方向は一面、岩の壁――――と思いきや、巨大生物が体当たりしたあとのような穴が開いていた。

(……洞窟か。ここを通り抜けるんだな) 
   
 ひとり得心していると、彼女が泳ぎ出した。

(手を引くんじゃなかったのか!?)
 
 目を白黒させているあいだに、視界が明るくなった。
 
 液状でなく高粘度の半固形物であるかのような質感の水から顔を出したときの爽快感ときたら、筆舌に尽くしがたいものだった。
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