誰かが尾鰭をつけた話

片喰 一歌

文字の大きさ
上 下
140 / 201
第4章 夕べの調べ

第30話 誰かが尾鰭をつけたがった話<Ⅹ>

しおりを挟む

「あはははっ! 思ったよりすぐ会えたね?」

「そうだな。再会を喜びたい気持ちは山々だが……。先に君の置かれている状況について、ふたつみっつほど尋ねたいところだな……」

 欄干に肘をついて見下ろした彼女の姿は、妙に小ぢんまりとしていた。
 
 あのときよりも僕たちの目線の高さが違いすぎるせいだ。視線を合わせているはずなのに、目が合っている気がしない。
 
「いいよ? なんでも訊いて訊いて!」

 そんな僕の心を完璧に読み取ってしまったかのように、彼女はぴょこぴょこ跳ねている。

「では、最も疑問に思っていることを。君はなんだって、こんな街中の水路に?」

「それがさ~、鳥さんと追いかけっこしてたら、ここに着いちゃったんだけど……」

(童話の世界の住人か?) 

 互い違いに重ねた両手を下方から上方へひらひらと揺らめかせているのは、空を往く鳥を表現しているのだろう。

「君は本当に交友関係が広いな……ではなくて。その友達は、いまどこに?」

「見失っちゃったみたい。でもさ、考えてみたら、一度もそのコに勝てたことないから、予定調和当たり前かもしれないけど! あーあ、また連敗記録更新しちゃった。悔しいから数えてはないんだけどね」

 とは言うものの、その視線はいまだ、遥か上空を彷徨っている。

 不屈の闘志に燃える瞳も好戦的で非常に美しかったが、視線の先に僕を映す際に灯す炎は、必ず恋情に彩られたものであってほしい。

「鳥の…………」

「ん?」  

「……鳥の種類はわからないが……。どちらが鬼役だとしても、水の張っている場所しか移動できない君と空中を自在に飛び回ることのできる君の友達とでは、圧倒的に後者のほうが有利なんじゃないか?」 
 
「励ましてくれてる? ありがとね! でも、落ち込んではないから大丈夫。ここまでくる予定もなかったけど、なんかいい感じの街並みだし、帰り道がわからないなんてこともないし……。あのコのおかげできみに会えたから! ……ていうか、あのコがきみのところまで案内してくれたのかもしれないね?」 

 少しは自惚れても構わないだろうか。
 
 彼女の歯は、貝殻よりも白く美しく光り輝いていた。

「本当にそうなら、僕も君の小さな友達に感謝しなければならないな…………」
  
「なんか言った?」 

 これだけ離れていれば聞こえないだろうと油断しきっていた感想をものの見事に拾われ、背筋を伸ばした。

 左の胸元は、懐中時計を仕込んでいるのではないかと思うほど騒がしかった。

「……いや。次の質問をしても?」

「いいよ!」
 
「君たちは、海水でなくても水さえあれば生きられるものなのか? 淡水や……人間ヒトが使うために浄化された水のなかに長時間いても、身体に影響はないのか?」

 極寒の国で生まれた人間が、一年を通して温暖な国に移住して、気候の変化についていけずに変調をきたすことがあるように、各人の生存に適した環境というのはあるはずだ。

 まして水中で暮らす種とあらば、その傾向が顕著なのではないか。

 ……などと御託を並べてしまったが、要は彼女の体調が気がかりだっただけだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【R18】幼馴染の男3人にノリで乳首当てゲームされて思わず感じてしまい、次々と告白されて予想外の展開に…【短縮版】

うすい
恋愛
【ストーリー】 幼馴染の男3人と久しぶりに飲みに集まったななか。自分だけ異性であることを意識しないくらい仲がよく、久しぶりに4人で集まれたことを嬉しく思っていた。 そんな中、幼馴染のうちの1人が乳首当てゲームにハマっていると言い出し、ななか以外の3人が実際にゲームをして盛り上がる。 3人のやり取りを微笑ましく眺めるななかだったが、自分も参加させられ、思わず感じてしまい―――。 さらにその後、幼馴染たちから次々と衝撃の事実を伝えられ、事態は思わぬ方向に発展していく。 【登場人物】 ・ななか 広告マーケターとして働く新社会人。純粋で素直だが流されやすい。大学時代に一度だけ彼氏がいたが、身体の相性が微妙で別れた。 ・かつや 不動産の営業マンとして働く新社会人。社交的な性格で男女問わず友達が多い。ななかと同じ大学出身。 ・よしひこ 飲食店経営者。クールで口数が少ない。頭も顔も要領もいいため学生時代はモテた。短期留学経験者。 ・しんじ 工場勤務の社会人。控えめな性格だがしっかり者。みんなよりも社会人歴が長い。最近同棲中の彼女と別れた。 【注意】 ※一度全作品を削除されてしまったため、本番シーンはカットしての投稿となります。 そのため読みにくい点や把握しにくい点が多いかと思いますがご了承ください。 フルバージョンはpixivやFantiaで配信させていただいております。 ※男数人で女を取り合うなど、くっさい乙女ゲーム感満載です。 ※フィクションとしてお楽しみいただきますようお願い申し上げます。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

エッチな下着屋さんで、〇〇を苛められちゃう女の子のお話

まゆら
恋愛
投稿を閲覧いただき、ありがとうございます(*ˊᵕˋ*) 『色気がない』と浮気された女の子が、見返したくて大人っぽい下着を買いに来たら、売っているのはエッチな下着で。店員さんにいっぱい気持ち良くされちゃうお話です。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

処理中です...