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第4章 夕べの調べ
第21話 誰かが尾鰭をつけたがった話<Ⅰ>
しおりを挟む彼女と出会ったときのことは、よく覚えている。
あれは旅行の途中だった。
その旅行には、仲のいい友人に誘われて参加したんだが、蓋を開けてみたら他にも同行者がいた。それも数名。
『行きたいと思っていた場所だったから』というのが第一の理由だが、それに次ぐ理由は『気心知れた友人との旅行だったから』なのに。
ひどい話だと思わないか?
まあ、最初に確認を取らなかった僕の落ち度でもあるし、仕方のないことなのかもしれない。
だが、本当の地獄はそこからだった。
いささか悪意のある言い方かもしれないが、人が群れをなすと、それをまとめる……としてしまうと耳触りがよすぎるか。仕切りたがる者が現れるだろう。
優柔不断な人間のなかに、そういう気質の者がひとりいれば、その者は救世主といえる存在になるだろうし、複数いれば、主導権の奪い合いが発生して、全体の雰囲気によくない影響を及ぼすことになる。
友人の友人のなかに、そういう奴がいたんだ。ひとり。
厄介なことに、そいつ自身は気さくないい奴だったし、計画自体にも無駄がなく、限られた時間でその地域を遊び尽くせるものだったせいで、他の誰も奴の提案に異を唱えようとはしなかった。
僕とは別にもうひとり、枯れた枝みたいな男がいて、そいつもついていけてない雰囲気だったが、他は特に不満にも思っていなそうな感じだったしな。
連日連れ回されどおしで、さすがにうんざりしていた僕は、他の奴らに断って、別行動を取ることにした。仕事の取材を口実にして。
そのときには、旅程の半分ほどが過ぎていた。そこまで付き合ったことを感謝してほしいくらいだ。
え? そいつのことは助けてやらなかったのかって?
当然だ。嫌なら自分でなんとかするだろうし、助ける義理もなかったからな。
……とはいえ、見殺しにしたような引っ掛かりは、少しのあいだ付き纏ったよ。
しかし、ほどなくして僕は、その国に行くきっかけを作ってくれた友人に感謝することになる。
正直なところ、いまのいままで、そんなかわいそうな男がいたということも忘れていた。そのくらい、衝撃的だったんだ。彼女との出会いは――――。
別行動を取ることは、前日の夜には伝えていた。
だが、みんなべろんべろんに酔っていたから、念のために書き置きを残し、僕は早朝から外に出た。
泊まっていた宿屋は街の中心部に位置していたから、人に遮られることなく街の様子を眺められたのはよかったな。
歴史ある都市は、街全体が遺跡といっても過言ではない。わざわざ名所まで足を延ばさずとも、そこかしこに昔の人たちの痕跡を発見できる。
そんなわけで、時間をかけてゆっくり散策していたら、海岸に到着したんだ。
僕はそれまで、海を越えることはあっても、海に親しむことはほとんどなかった。
これまで活動の拠点としてきた地域は、お世辞にも環境がいいとは言えないところだったり、そもそも海に面していなかったりして、なかなか縁に恵まれなかったんだ。
そこの海はなかなか綺麗な色をしていたし、環境もまあまあで、ここの海は悪くないかもしれない……なんて思った矢先。
――――水面に浮かぶ顔を見つけて、景色を楽しむどころではなくなってしまったんだ。
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